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「まずまずであろう」
 安友は内心などおくびにも出さずに答える。
 そもそも、郡司を焚きつけたのは安友だった。前の集落で目代が横暴を働いているのを目の当たりにし、これはもしかするとと思って郡司がいる集落で「目代の横暴にただされるがままになるのか」と訴えたのだ。それだけでなく、
「国司が摂政に合力を求め、その手下(てか)が国に向かっておるぞ」
 と告げた。
 不満が溜まっていたところに、それを煽るような話を聞かせられ郡司はいきり立った。
「国司を諌め、罰するどころか摂政は奴輩につくというのか。いかい非道な真似を」
 そう怒鳴って盃を床に叩きつけて割ってしまう。
「されば、いかがする。安危存亡の折ぞ」
「むろん、目代に目にものを見せてくれるわ」
 安友の問いかけに郡司は拳を握ってこたえた。思う壷だ。
「よう、安友」
 呼びかけで安友は我に返った。家人に案内されてふたつの人影がこちらに近づいてくる。頼慶と大食だ。
「おまえも悪い奴だな」
 大食が手が届く距離にまで詰めて意味ありげな言葉を吐いた。
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