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「む、それもまた道理」
自分というものがない在信がこちらの言葉にうなずいた。風に吹かれる枯れ枝のごとく頼りない男だ。
「では、物見には誰が出るの」
「俺が言い出したのだ、俺が行(ゆ)こう」
のふの問いかけに将門は気負って語気を強めて告げる。
「わかった、任せた」
だったらいい、というようにのふは肩をそびやかした。
その後、将門は彼らを待たせ道を先へと進んだ。やがて、ひとつの集落へと行きつく。
里の出入り口脇にあるシイの木立の陰に身を隠しようすをうかがった。
あちこちで炊事の煙があがっている。争いの前の準備だろうか。だが、考えていても答えは出ない。
中腰の姿勢で彼は里の外れの家屋のひとつへと近づいていった。
宅の裏手へと足を運んだ。とりあえず、誰かに見つかることはなかった。そのまま表のほうへと徐々に移動していく。その途中で物音を耳にした。
なにかが物にぶつかるような音だ。将門にとって聞きなれた物音だった。
矢で板などを射ている音――さらに慎重な足取りになって表のほうに近づいていく。木の柵越しに母屋の陰からちょうど庭を覗ける位置に立ち足を止めた。
やはりな、声に出さずにつぶやいた。庭で痩身の男が脇に童をしたがえ地面の一角に立てた的、棒に板をくくりつけた物を矢で射ていた。かつては軍兵(ぐんぴょう)とは庸民から集めるものだった。だから、弓を庸民が持っていても不思議はない。むろん、弦を張り直すことは必要だろうが。
自分というものがない在信がこちらの言葉にうなずいた。風に吹かれる枯れ枝のごとく頼りない男だ。
「では、物見には誰が出るの」
「俺が言い出したのだ、俺が行(ゆ)こう」
のふの問いかけに将門は気負って語気を強めて告げる。
「わかった、任せた」
だったらいい、というようにのふは肩をそびやかした。
その後、将門は彼らを待たせ道を先へと進んだ。やがて、ひとつの集落へと行きつく。
里の出入り口脇にあるシイの木立の陰に身を隠しようすをうかがった。
あちこちで炊事の煙があがっている。争いの前の準備だろうか。だが、考えていても答えは出ない。
中腰の姿勢で彼は里の外れの家屋のひとつへと近づいていった。
宅の裏手へと足を運んだ。とりあえず、誰かに見つかることはなかった。そのまま表のほうへと徐々に移動していく。その途中で物音を耳にした。
なにかが物にぶつかるような音だ。将門にとって聞きなれた物音だった。
矢で板などを射ている音――さらに慎重な足取りになって表のほうに近づいていく。木の柵越しに母屋の陰からちょうど庭を覗ける位置に立ち足を止めた。
やはりな、声に出さずにつぶやいた。庭で痩身の男が脇に童をしたがえ地面の一角に立てた的、棒に板をくくりつけた物を矢で射ていた。かつては軍兵(ぐんぴょう)とは庸民から集めるものだった。だから、弓を庸民が持っていても不思議はない。むろん、弦を張り直すことは必要だろうが。
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