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もっともうせば、と忠平はまだ得心のいかぬようすの息子に言葉をつづける。
「坊主とて、我らを利用し、我らもまたかの者らを利用しておる」
「僧、がでおじゃるか、父上」
さようだ、と実頼に忠平は大きくうなずいてみせた。
「坊主は経を唱える。それに報いて我らは寄進する。どうだ、互いに利用する間柄であろうが」
「父上、さような儀を大声で申されぬほうが」
心配性が、と忠平は息子を笑う。
この“一の人”に誰が刃向かうことができるというのか――のちにいう摂関政治を始めた男は声に出ださずにつぶやいた。
それから雑人が呼びに来る。「御所さん、上達部が陣定を再開したいと仰せです」
実は忠平は陣定の合間の休憩の最中だったのだ。
「承知したでおじゃる」
忠平はうなずきその場から歩き出した。
第三章
一
鈴鹿に向けて将門たちが歩いていると、前方から複数の人影がやって来た。
かすかに緊張をおぼえた将門だったが、相手が馬を曳く商人らしき者とその警固ふたりといった風情であることに気づいて息をつく。考えてみれば目代の手下(てか)だとしても前方から来るはずがなかった。常道から言って追手なら背後から現れるはずだ。
が、図らずも行く手に困難が待ちうけていることを馬を曳く老人が明かす。
「坊主とて、我らを利用し、我らもまたかの者らを利用しておる」
「僧、がでおじゃるか、父上」
さようだ、と実頼に忠平は大きくうなずいてみせた。
「坊主は経を唱える。それに報いて我らは寄進する。どうだ、互いに利用する間柄であろうが」
「父上、さような儀を大声で申されぬほうが」
心配性が、と忠平は息子を笑う。
この“一の人”に誰が刃向かうことができるというのか――のちにいう摂関政治を始めた男は声に出ださずにつぶやいた。
それから雑人が呼びに来る。「御所さん、上達部が陣定を再開したいと仰せです」
実は忠平は陣定の合間の休憩の最中だったのだ。
「承知したでおじゃる」
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が、図らずも行く手に困難が待ちうけていることを馬を曳く老人が明かす。
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