平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 それで何があったかはおおよそ察しがついた。ここの郡司が目代たちにとってはなんらかの事由で邪魔だったのだろう。それで家族もろとも殺そうとした。だが、どうやってか童だけが邸の外にまで逃げおおせた。そこに将門が出くわしたということだろう。
 将門は童の姿が他人事には思えなかった。坂東に帰れば荘園を継ぐことになる。そして、坂東では土地を巡った争いが起きることもしばしば。戦に敗れれば将門や家族もまた童と同じような目に遭うだろう。
 しかし将門にしてやれることはなかった。ただ、邪魔にならないよう静かに母屋へとやる瀬ない心持ちでもどっていく。それに在信とのふ、そして足往までもつづいた。

   二

 陸奥国の国府の一隅でのことだ。
 何十人という蝦夷(えみし)が父の指示のもとに働いていた。作事がおこなわれているのだ。塀の補強が目的だという。大勢の大人が父の下知にしたがっている、それを見ているだけで幼い将門は誇らしい心持ちがした。
「これ、支障(さわり)となっては困るゆえ近づくなと申しつけたであろう」
 将門の姿を認めた良持(よしもち)が顔をしかめてみせる。彼は目つきの鋭いいかにも油断のならない顔つきをしていた。
 刹那、将門の腹の虫が鳴いた。
「腹で返事をするやつがあるが」
 叱りつけながらも良持は笑顔になっている。確かにそろそろ夕餉の刻限だな、と独語して、
「おまえたち、今日の作事はここまでだ。ご苦労だった」
 周囲に向けて声を張り上げた。
「今日から、おまえの腹の虫を作事の終いの合図に使うかの」
 父にからかわれ将門は顔を赤くしてうつむいた。
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