平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「それより、日も落ちようとしている。宿を求めたいのだが」
 将門は面の皮の厚いせりふを口にする。
 これには、朋輩を殺しておいてなにをいうか、そんな表情を男は浮かべたが、
「求めたいのだが」
 将門が剣気を発しながら告げるや、
「しょ、承知」
 声を甲高くして応じた。腑抜けが――。
「童、どうする。ついてくるか」
 将門は童を見据えてたずねる。彼の側をはなれれば殺されることは目に見えていた童は小さくひとつうなずいた。
 それから将門たちは集落のなかでも一際大きな宅(やけ)をおずれる。
「安麻呂(やすまろ)、童は始末したのか」
 そこに複数の影が門から表へと出てきた。
 とたん、その中央にいる肥えた男が恐らくはその“童”が無事でいるのを目の当たりにして瞠目する。
「童なら俺が預かった」
「なにを慮外なことを、うぬ」
 将門の平然とした態度に男が激昂する。
 その間に不運にも立たされた、ここまで将門たちを連れてきた男が、
「目代、この仁は一の人の侍であらせられまする」
「なに、まことか」
「これがその証左だ」
 将門が男から返却されていた書付を太った男に投げた。ややのろまな動きでなんと書付を受け取り彼は目を通す。
「魂消(たまぎ)った」
 簡潔な言葉はかえって彼の心情をよくあらわしていた。
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