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「なにもそもじだけにこの任を命じるつもりはない。合力する者をつける者ゆえ、しかと厭物(えんもつ)を持ち帰って参れ」
 意気込む忠平に対し将門の温度は低かった。やや間があってから、
「御意」
 と軽く顎を引いた

   第二章

   一

 富士への出立の日、案内人として忠平邸に姿を現わした相手に将門と源在信(みなもとのありのぶ)は目を見張ることになった。在信は将門と同じく忠平に仕える侍で、眉目秀麗だがどこか頼りない風情の少丁の男だ。
 なんと、彼らの前に立ったのは頼慶と飲んだときに舞を舞った白拍子だったのだ。これには将門は目を剥いた。
 だから、在信がおどろいた点は「女性(にょしょう)が旅の道連れか」ということだった。つぶやく声色に感情がにじんでいる。
「御所さん、この者は」
「そなたの富士への案内人だ」
 将門の念のための確認に、忠平は意味ありげに笑って応じる。
「業前が懸念されるなら、ご覧(ろう)じろ」
 白拍子が立ち上がり、鞘を払って太刀を将門に向かってふるった。
 む、と目を剥きながら将門はすばやく床を転がって一閃を避ける。視界にはこちらと同じく瞠目する在信の姿が映った。
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