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「かの者の中には、主上や上達部を恨んだ者も多いと聞く。菅公のごとく命を落としておらなんだゆえ、祟るということはなかったがの」
「祟らなかったとなれば、支障はござりませぬではありませんか」
「それが、話は容易くはいかぬのだ」
 将門の言葉に忠平は大きく頭をふった。
「菅家廊下の者で、菅公のしゃれこうべを掘り出し呪詛に用いておるというのだ」
 尊敬していた人間の頭蓋骨を掘り出し呪詛に用いる――複雑な思いが将門にはあった。崇敬の念を持っていた遺骸を粗末に扱うことに批判的な感情を抱く一方で、出世にかけることへの理解もあった。
「呪詛をなしておる者を手前が斬ればよろしいので」
「斬るのはともかく、場所が難儀なのだ」
 将門の質問に忠平が眉をひそめる。
「いずこでございます」「富士の頂きでおじゃる」
 忠平の返答に将門は一瞬言葉を失った。富士はむろん、その高さもさることながら白露を過ぎると最低気温は水が凍るそれへと達する。五合目からでも山頂までの高さは四九〇丈を越えた。
「敵は烏滸(おこ)でございますか」
「単なる烏滸であればいいが、ことを為す力をそなえた烏滸でおじゃる」
 将門の素直な言葉に忠平は苦々しい口調で声を発する。
「そして、その烏滸どもを」
「まさか、手前が富士まで出向いて斬れ、と」
 相手の言葉を先回りして将門は言葉を継いだ。
「さようだ。呪詛がなされていると噂が広がり、何の手を打たねばわしの立場も危うい」
 忠平自身が醍醐帝を菅公の怨霊を持ち出して恐らくはその力を削いでいる。それを考えれば、みずからへの呪詛は決して見過ごせない。
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