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「舞いをご覧にはなりませぬか」
「よいな、京の女性の舞いを見せてもらおうか」
「おい。おまえ、銭は」
 嫌な予感がしてたずねると、
「わしは僧だぞ、持ち合わせなどないわ」
 頼慶はいけしゃあしゃあと答えた。将門の支払いは最初から勘定に入っているようだ。
 だが、銭を払うのも満足するほどの舞いを白拍子は見せた。
 指先のひとつひとつにまで神経を研ぎ澄まし、総身の筋肉を連動させて動かしていた。その様は優れた武人を連想させた。
 どれだけ時間が立っただろうか、白拍子が動きを止めたところで頼慶が大きな音を立てて拍手を送った。
「見事であった」
「のふ、ともうします。なしうるなら、お見知りおきを」
 将門の喝采に白拍子が妖艶な笑みを浮かべる。
「主につたえておこう。顔が広い仁ゆえ、そもじの風聞はすぐに京中に広まるであろう」
「それはまた大仰な」
「それが大仰なことではないのだ。こちが名簿を捧げておるおるのは一の人ゆえな」
「ま、摂政様にお仕えで」
 白拍子の反応を楽しもうと思った将門だが、結果として帝の五代の苗裔が官職欲しさに上達部にいいように使われていることを思い出させられた。
「さようだ、侍として仕えておる」
 将門は鬱屈とした思いを呑みこんで白拍子の言葉に応じる。他方、頼慶は白拍子を明らかな色目で見ていた。
「頼慶、僧侶の本分を忘れてはおらんだろうな」
「な、なにを申す。いつ何時も、わしは仏の教えとともにあるぞ」
「仏の教えとともにおる癖に酒を飲んだのは誰だ」
 完全に論破され、頼慶は盆の首に手をやってわかりやすい誤魔化し笑いをもらした。
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