17 / 136
17
しおりを挟む
「ふん、戦に縁があったところで、当世武技に優れたるは兵。縊り殺してやるでおじゃる」
「されど、呪術の要のしゃれこうべは富士のいただきでおじゃる」
「そもじに案じられずとも、山に対する手立ての心当たりもあるでおじゃる」
密告者に忠平は余裕の表情で浮かべた。それは一の上、摂政の地位にあるものの顔つきだ。摂関政治を始めた最初の男とされる者の自信はちょっとやそっとでは揺るがない。
三
忠平にしたがって邸にもどった将門をおどろきの人物が待っていた。
「押人(おしひと)」
その名は、かつての朋友の名だった。ある日を境に遊びの待ち合わせ場所に現れなくなった友が僧形、裳付け衣姿になって将門の前にたたずんでいた。相手が立つ場所は雑人舎の簀子の上だ。それを将門は見上げる形だ。
「久しいな。なれど、今のこちの呼び名は頼慶(らいけい)だ」
「そうか、頼慶か。俺は小次郎だ」
お互いに親しげな笑みで語り合う。
「積もる話もある、中で話すというのはどうだ」
頼慶の言葉に小次郎はかすかに表情を曇らせた。
「いや、酒を持って外にくり出そう」
「そうか、さればそういたそう」
将門の言葉に一瞬、いぶかしげな顔をした頼慶だったが特にそれ以上の追求はなくひとつうなずいた。それに将門は安堵する。彼としては、行方知れずとなっていた友との再会に主の殺伐とした下知で水を差されたくなかったのだ。
そうなれば話は早かった。下男に盃と瓶子に入った酒を用意させ、さっそく宇治に向けて出立する。半刻近くの時をかけて滔々と流れる宇治川のほとりに到着した。三方を山に囲まれているのが視界に入る景勝の地だ。あたりをアキアカネが飛び交っていた。
「されど、呪術の要のしゃれこうべは富士のいただきでおじゃる」
「そもじに案じられずとも、山に対する手立ての心当たりもあるでおじゃる」
密告者に忠平は余裕の表情で浮かべた。それは一の上、摂政の地位にあるものの顔つきだ。摂関政治を始めた最初の男とされる者の自信はちょっとやそっとでは揺るがない。
三
忠平にしたがって邸にもどった将門をおどろきの人物が待っていた。
「押人(おしひと)」
その名は、かつての朋友の名だった。ある日を境に遊びの待ち合わせ場所に現れなくなった友が僧形、裳付け衣姿になって将門の前にたたずんでいた。相手が立つ場所は雑人舎の簀子の上だ。それを将門は見上げる形だ。
「久しいな。なれど、今のこちの呼び名は頼慶(らいけい)だ」
「そうか、頼慶か。俺は小次郎だ」
お互いに親しげな笑みで語り合う。
「積もる話もある、中で話すというのはどうだ」
頼慶の言葉に小次郎はかすかに表情を曇らせた。
「いや、酒を持って外にくり出そう」
「そうか、さればそういたそう」
将門の言葉に一瞬、いぶかしげな顔をした頼慶だったが特にそれ以上の追求はなくひとつうなずいた。それに将門は安堵する。彼としては、行方知れずとなっていた友との再会に主の殺伐とした下知で水を差されたくなかったのだ。
そうなれば話は早かった。下男に盃と瓶子に入った酒を用意させ、さっそく宇治に向けて出立する。半刻近くの時をかけて滔々と流れる宇治川のほとりに到着した。三方を山に囲まれているのが視界に入る景勝の地だ。あたりをアキアカネが飛び交っていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
国殤(こくしょう)
松井暁彦
歴史・時代
目前まで迫る秦の天下統一。
秦王政は最大の難敵である強国楚の侵攻を開始する。
楚征伐の指揮を任されたのは若き勇猛な将軍李信。
疾風の如く楚の城郭を次々に降していく李信だったが、彼の前に楚最強の将軍項燕が立ちはだかる。
項燕の出現によって狂い始める秦王政の計画。項燕に対抗するために、秦王政は隠棲した王翦の元へと向かう。
今、項燕と王翦の国の存亡をかけた戦いが幕を開ける。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中

『影武者・粟井義道』
粟井義道
歴史・時代
📜 ジャンル:歴史時代小説 / 戦国 / 武士の生き様
📜 主人公:粟井義道(明智光秀の家臣)
📜 テーマ:忠義と裏切り、武士の誇り、戦乱を生き抜く者の選択
プロローグ:裏切られた忠義
天正十年——本能寺の変。
明智光秀が主君・織田信長を討ち果たしたとき、京の片隅で一人の男が剣を握りしめていた。
粟井義道。
彼は、光秀の家臣でありながら、その野望には賛同しなかった。
「殿……なぜ、信長公を討ったのですか?」
光秀の野望に忠義を尽くすか、それとも己の信念を貫くか——
彼の運命を決める戦いが、今始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる