平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「ふん、戦に縁があったところで、当世武技に優れたるは兵。縊り殺してやるでおじゃる」
「されど、呪術の要のしゃれこうべは富士のいただきでおじゃる」
「そもじに案じられずとも、山に対する手立ての心当たりもあるでおじゃる」
 密告者に忠平は余裕の表情で浮かべた。それは一の上、摂政の地位にあるものの顔つきだ。摂関政治を始めた最初の男とされる者の自信はちょっとやそっとでは揺るがない。

   三

 忠平にしたがって邸にもどった将門をおどろきの人物が待っていた。
「押人(おしひと)」
 その名は、かつての朋友の名だった。ある日を境に遊びの待ち合わせ場所に現れなくなった友が僧形、裳付け衣姿になって将門の前にたたずんでいた。相手が立つ場所は雑人舎の簀子の上だ。それを将門は見上げる形だ。
「久しいな。なれど、今のこちの呼び名は頼慶(らいけい)だ」
「そうか、頼慶か。俺は小次郎だ」
 お互いに親しげな笑みで語り合う。
「積もる話もある、中で話すというのはどうだ」
 頼慶の言葉に小次郎はかすかに表情を曇らせた。
「いや、酒を持って外にくり出そう」
「そうか、さればそういたそう」
 将門の言葉に一瞬、いぶかしげな顔をした頼慶だったが特にそれ以上の追求はなくひとつうなずいた。それに将門は安堵する。彼としては、行方知れずとなっていた友との再会に主の殺伐とした下知で水を差されたくなかったのだ。
 そうなれば話は早かった。下男に盃と瓶子に入った酒を用意させ、さっそく宇治に向けて出立する。半刻近くの時をかけて滔々と流れる宇治川のほとりに到着した。三方を山に囲まれているのが視界に入る景勝の地だ。あたりをアキアカネが飛び交っていた。
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