平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 時は二刻ほどさかのぼる。
 場所は左京の、霊物が棲むとされる荒れ放題の邸(やしき)だ。
 その吹きさらしになった母屋にふたつの人影があった。ひとりは大食(おおはみ)という男だ。目がぎょろりとしており鷲鼻で唇は薄い。それに両腕が異様に長い。だが、もっとも目立つのは左耳がないということだ。
「京の都といったところで、所詮はこの有様よ」
 大食は手で母屋を示してみせる。
「右京の四条から北に宅(やけ)はひしめているともうすからの」
 それに相手は淡々といたようすで応じた。
「市では人の子が売り出されることもあるというな」
 大食の言葉は事実だ。生まれの吉兆などで子を売った親のことが記録に残っていた。また、女人の親の財産の相続はより縁談が決まりやすそうな容姿に優れた者ひとりにすべて与えられるというふうになっていた。
「上達部(かんだちめ)の奴輩はその心持ち次第で人を傷つけ、殺めるとか」
「そのようだな」
 この大食の言葉には相手の声にも感情がこもる。
「我々はかような輩に天誅をくだすためにこたびの挙に及んだのだ」
「いわれずとも承知しておる」
 何度もくり返されてきた大食のせりふに相手はややうんざりした表情を浮かべる。
 こやつ、まっこと承知しておるのか――この一事に命を捧げている大食は顔をしかめざるをえない。そんな彼に、
「忘れたか、上達部の政(まつりごと)のせいで辛酸を舐めさせられたのはなにもそなただけではない」
 相手はわかっているとばかりにひとつうなずいた。
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