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「俺は時たま、おまえの自儘さが羨ましくなる」
「なにを贅沢なことを。食うに困らぬ身だろうが」
 将門の口から出たのは本音だが、安能が告げたことももっともだ。
「どれ、痴れ者にはわしが行く末を占ってやろう」
 安能が皮肉な笑いを浮かべ懐から筮竹を取り出す。音を立てて擦り合わせた末、卜占の結果が示される。
 うむ、と安能は唸り声をもらした。
 将門は卜占など信じない性質(たち)だったが、彼の占いが当たるという事実だけは悔しいが否定できなかった。だから、安能の反応はどうにも気持ちがよくない。
「天沢覆(てんたくり)の卦が出た。常に災いがあるかのごとき儀がつづく」
「なにが行く末を占ってやるだ、縁起の悪いことを申しおって」
「話は最後まで聞け」
 顔を将門に睨みつけられ、安能は不満げな表情を見せた。
「みずからの正しさを信じて正道を歩けば災いを避けることができる」
「正道を歩む、か」
 主の言いつけで人を斬る、そんな者に正道など歩めるとは思えなかった。
「というわけだ、また酒を持って来い」
 そんな彼の思いをよそに安能が瓶子を持ち上げて振ってみせる。実は今飲んでいる酒も将門が数日前に持ってきたものだ。
 やれやれ、と将門はかぶりをふる。そして「わかった、わかった」と諦念のにじむ声で応じた。
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