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 将門も彼らと同じように笑声をあげた。主人に命じられ兵を斬ったせいじで生じた鬱屈とした思いがおかげで多少は薄れる。実はここに来る前、主の下知で彼の気に喰わない上達部にしたがう兵を斬っていた。一種の見せしめだ。当世の兵というのは“殺しの上手”などと表現され、暗殺者としての顔を持つのが実態だった。
 その後は、何度か相撲をとって将門は羅生門を後にした。むろん、相応の金子も報酬として受け取っている。
 外に出たところで、
「今宵もそちは勝ちに勝ったな」
 と人影が言葉をかけてきた。直垂(ひなたれ)に括袴(くくりはかま)の痩せこけた男だ。手には杖を持っている。
「相手が弱すぎるのだ」
 彼に将門は馴染みの者に対する気安さを見せる。
 相手の名は能安(のうあん)、術法(ずつほう)の者(民間陰陽師)だ。羅生門の賭け角力に向かう途上である日、夜盗に襲われていたのを気紛れで助けて以来の付き合いだ。
「それより、お前の住処に寄らせろ」
「なにが寄らせろだ、主が内裏に向けて出立する刻限まで居座るくせに」
 将門の言葉に能安は顔をしかめてみせる。が、その口もとはゆるんでいた。
「まあ、そうつれないことを申すな。俺は命の恩人だろうが」
「ふん、酔っておらなんだら、夜盗風情に遅れはとらん」
 能安は手にした杖で地面を強く突く。当人曰く、酔っていなけれればこの杖で夜盗など十二分に相手取れる、ということだが将門は信じていなかった。武技は必ずしも膂力に勝る者が優れているとは限らないが能安にはそれも当てはまりそうにないからだ。
 なんだかんだ、と言いながら朱雀大路を北上して六条大路と交わるあたりで角を曲がった。それからしばらく歩き、道祖大路と交わる手前の小屋(こいえ)にふたりは入った。一位から三位の貴族は四〇丈四方の土地に住み、さらに藤原氏はその二倍から四倍の広さの場所に住んでいたが、それと比べると安能の住処はいかにも狭苦しい。が、将門はいかに広かろうが主の屋敷に身を置いているときよりここにいるときのほうが心が休まる。
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