平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 これで勝ちだ。この賭け相撲では、“負けを認める”“それ以上闘うことができなくなる”そして“倒れたら負け”と決まっていた。倒れたらどうして負けかというと、これ以上に隙のある体勢はないためそうなった時点で敗北だ、という考えのもとに定められていた。だから、将門の再度の膝蹴りは相手に物言いをさせないために念を入れたものだ。
「むう、さすがは都、武技に優れた者がいるものだ」
 幸い、為景はすんなりと負けを認める。これに将門は愉悦と優越感をおぼえ体が火照るのを感じた。
「では、他に相撲をとろうという仁はおりやせんか」
「俺が」
 短躯の男の問いかけに、ひとりの男が自信ありげな声音で応じた。これまた新顔だ。
 こやつ――将門は表情を引き締める。相手の体つきが本物の相撲取りを連想させたからだ。したが、望むところでもある――。
「おれの名は志己部(しこぶ)」
 男が近づいてくるや不敵な表情で名乗る。
「御両所、よろしいか」
 そこに短躯の男が問いかけた。おう、と将門と志己部はこたえる。
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