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「どうした」
 良持がやさしくたずねる。
「お見事でございます、父上」
 息子の賞賛に良持は微苦笑を浮かべた。だが、表情を悪戯っぽいものへと変え彼は口を開く。
「そもじはわしのようになってくれるか」
「むろん、なりとうございます」
 父の言葉に将門は力強く首を縦にふった。

   第一章

   一

 醍醐帝の御世、寒露の菊花開(きっかひらく)ころの深更のことだ。
 少丁の齢(よわい)の将門は己が仕える主、忠平に同じく仕える下男に「出かける」と言い残してふたたび外へと出た。向かった先は羅城門だ。かつては威容を見せていた門も今や廃墟の様相を呈している。
 そんな場所に夜に集まる者がまともなはずがない。
 門のなかには人垣ができており、その輪の内側には三間ほど円形に無人地帯ができている。
 どうやら、まだ“はじまって”いないようだ。胸が高鳴る。
「さあさあ、力自慢、技自慢、誰かひとつ相撲をとらないか」
 前歯が二本ない短躯の男が賑やかにはやし立てた。
「おう、俺が出る」
 それに将門が応じた。これを聞いたこの場に居合わせた者の多くが喝采を送る。熱狂に近い空気が既に生まれつつあった。
 さらに、「俺も出るぞ」という声があがった。
 先に輪の内に歩み出ていた将門の視界に、人垣から偉丈夫が歩み出てくるのが認められた。見たことのない顔だ。身なりなどからすると、鄙(ひな)の地から京にのぼってきた兵(つわもの)といったところだろう。
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