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    序章

 まだ元服を迎えていないのちの平将門(たいらのまさかど)の胸は高まっていた。
 彼の姿は、山を通る大道の側の斜面の茂みのなかにある。周囲には将門と同じく身を隠して進む大人たちの姿があった。
 そのなかでも一等近くに父、鎮守府将軍良持(よしもち)の姿があった。精悍な顔つきをした彼は、街道のななめ前を進む者たちに視線を注いでいた。壺装束の女人とそれにしたがう僕(しもべ)に良持のまなざしは向けられていた。が、それが突如としてあさっての方向へとそれる。それに合わせて将門も目線を転じた。
 主従の向こう、十丈ほど先の茂みから薄汚れた身なりで野太刀を刷いた者たちが姿を現わしたのだ。
 彼らは大道に出てくるや駆け足となる。連中は盗賊だ。その退治に良持は鎮守府将軍でありながらみずから出張ってきたのだ。
 良持があらかじめ決めていた合図、腕を胸の高さにあげて腕をふるという仕草を見せた。下知を受け周囲の大人たち十数人が弓に矢をつがえる。そして郎党と同じように良持もまた弓矢を構えた。
 父上――声ならない賞賛を将門は送る。
 転瞬、父が矢を放った。それが確かに盗賊のひとりの眼窩に突き立ったのを将門は認めた。
 良持の一矢を皮切りに無数の矢が盗賊たちに向かって降り注いだ。
 偶然か、備え持った技か、矢を弾いてみせる者もいたが次々と射かけられ、やがて路傍に骸をさらすことになる。濁った声や悲鳴があたりにひびいた。
 だが、なおも矢をかいくぐった猛者が数人いた。
 間合いが詰まる。刹那、良持が履いた太刀の角度を調節、抜きつけの一撃を放った。迅雷の速度で動いた刃が相手の脚を逆袈裟に斬る。返す太刀、袈裟斬りでもって左から迫る敵を良持は迎え撃った。立てつづけにふたりが悲鳴をあげて戦闘不能に陥る。
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