私の異世界転生~私は幸せになりたい~

柚希

文字の大きさ
上 下
16 / 42
1章 異世界のようです。

階層の設定追加

しおりを挟む

「言っておくけど、私は将校オフィシエ57人から推薦されて、将校オフィシエになったからね」

「「なっ!57人!!」」

 まぁ、驚くことも仕方がない。普通はそのようなことは無いらしいから。

「おい、何をした!俺たちですら、2ヶ月かかってやっと騎士シュヴァリエになったんだぞ!」

「ゼクトデュナミス。ここで騒ぐのはよくない」

 そうだね。ザインの言うとおりだ。ザインは何かと突っ走るゼクトの諌め役だ。恐らく神父様がゼクトを一人にしておくと問題を起こそうとするので、ザインをつけたのだろう。

「だが、あの弱いアンジュだぞ!訓練もサボって最低限しか参加しなかったアンジュだぞ」

 あ、それはバイトしていたから朝の聖水の作成作業と教会の清掃以外の訓練の免除を神父様から許可をもぎ取っていたし、どうしても出ろと言われた時の戦闘訓練は面倒だから手を抜いていたからね。

「リュミエール神父に色目使っていたアンジュだぞ」

「恐ろしいこと言わないでもらえる?」

 なぜ、私が神父様に色目を使わなければならないのか。当たり障りなく接することに苦心しても、決して媚を売った覚えはない!

「だったらなんで、リュミエール神父の部屋によく出入りしていたんだ!」

「それはお説教と反省文という名の経済学の論文を書かされていたから」

「リュミエール神父とよく出掛けていたよな!」

「ボードゲームで神父様に勝てばケーキを奢ってくれるという報奨物のため」

 ん?今思えば、何かと神父様に課題を出されていたな。

 ゼクトは私が将校オフィシエになることが気にいらないらしい。いつもながら、よくわからないことで、突っかかってくる。私が決めたことじゃないのに、ここで騒がないでほしい。

「ねぇ。これ以上騒ぐと、神父様に説教してもらうよ。ここに神父様が来ているからね」

 すると、ゼクトはピタリと文句を言うのを止め、ザインのところまで戻っていき私に背を向けた。
 やはり、神父様が怖いのは皆同じらしい。だけど、私を後ろ目で睨んでくることに変わりはなかった。


 その時、この聖堂の鐘が鳴り響いた。音楽でもかなでるように音階が違う鐘が鳴り響く。聖典に書かれている聖女の祈りの一節の音階だ。儀式が始まるのだろう。

「ザインメディル・フラヴァール!」

 ザインの名が一番初めに呼ばれた。
 一人一人名を呼ばれ、聖女の石像に誓いの言葉を言うだけの儀式だ。

 普通の騎士団なら王から剣を承り、剣を捧げる儀式もするそうだが、いない人物が騎士に向けて剣を掲げるわけにはいかないので、言葉だけを捧げるだけだ。

「ゼクトデュナミス・エヴォリュシオン!」

 5分ぐらいの間隔を開けてゼクトの名が呼ばれた。
 何度かゼクトの名を聞いたことがあるけど、いつもながら全く聞き取れない。私の病気は成長しても治ることはなかった。

「アンジュ!」

 なんだか家名がないと味気ないな。そう思いながら、金の装飾がされた扉の前に行き、祭壇側から開けられた扉をくぐって、進んでいく。そこは、人、人、人に埋め尽くされた空間だった。その視線が一斉に突き刺さる。そして、ざわざわとざわめきが沸き起こる。

 聖女至上主義の狂信者共め。黙っていろ。全身を嘗めるような気持ち悪い視線を向けてくるな。

 私は祭壇の中央上部に設置してある。手を組んで天を見上げている女性の像の前に立つ。どこの聖女像も同じ姿をしている。決して剣を捧げる騎士を見ることはない。

 その前に跪く。そして、飾りである腰の剣を抜き、目の前に掲げ、左手を剣身に添える。息を吸い、決まりきった文言を言う。

「我が剣は魔を払い。我が盾は闇を払い。我が身は天使の聖痕を化現されし、聖なる者を命をかけて守らん」

 心にもないことを誓わされるつまらない儀式だ。そして、私の名を呼んだ同じ声で階級の授与の言葉が示される。

「この者に将校オフィシエの階級を与える」

 この言葉に合わせて拍手がされ、私は立ち上がり、踵を返して狂信者共がいる方に向けて一礼する。

 これで終わり。顔を上げると私の正面上段から見下ろす白い王と視線が合った。ああ、彼の周りのモノたちは聖堂の中でも顕在なのか。

「この場を借りて皆に報告がある」

 いつの間にか私の隣にはルディが立っていた。え?気配を感じなかったのだけど?

「私、シュレイン・ルディウス・レイグラーシアとアンジュは一年後に婚姻することとなった。これは国王陛下に許可をいただいた婚姻だ」

 ザワザワとざわめきが大きくなる。所々から『あの虐殺の王弟が』とか『死神が』とか聞こえてくる。ルディの痛い二つ名は貴族の間でも有名なようだ。

「王家に白銀の色を入れる婚姻だ。この場では婚約をしたという報告をさせてもらう」

 ん?その言い方だと悪いように捉えられないだろうか。私の疑問は拍手の海にかき消されてしまった。


 私はルディに手を引かれ、祭壇前から連れ出された。待ち時間が長いわりには、誓いの儀式は直ぐに終わってしまった。まぁ、長々と説法を解かれても耳から耳へ通り抜けていくだけだから、これで良かったと思おう。

 無言で長い廊下を歩いていると、私とルディの行く道を遮る者がいた。ゼクトなんたらかんたらだ。

「おい!やっぱり卑怯な方法で将校オフィシエになってるじゃないか!」

 何をいきなり言い出すのか。私は呆れた目をしてゼクトを見たのだった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

私と番の出会い方~愛しい2人の旦那様~

柚希
ファンタジー
世界名:グランドリズ ハーレティア王国の王都、レティアの小さな薬屋の娘ミリアーナと番の2人との出会い。 本編は一応完結です。 後日談を執筆中。 本編より長くなりそう…。 ※グランドリズの世界観は別にアップしてます。 世界観等知りたい方はそちらへ。 ただ、まだまだ設定少ないです。 読まなくても大丈夫だと思います。 初投稿、素人です。 ふんわり設定。 優しい目でお読みください。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

処理中です...