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陸が顔を歪めた。陸の生活圏には誘拐や暗殺といったものはない。取得動機を聞いていたたまれないのだろう。
でもね、陸。今なら全てが意味ある事に思えるんだ。陸を守る為に護身術も必要だ。陸を満たす巣を作るには金も必要だ。そして……
陸が私の襟首を引っ張る
「それでも凄い事です!操縦士免許は取るのも維持するのも労力がかかります。いくら貴方でも…」
…………『当然』。私は最高位αだ。操縦士免許は持っていて当然だし、学生と経営者の二足の草鞋も当然だし、恵まれた身体能力も当然だ。そう、全てが当然な事と受け止められるのだ。出来て当然
『いや、神様じゃあるまいし。京極様だって人間だから』
私の集中力が切れかけた時に陸は休憩を提案し、私の部下がソレに反対した時に陸が言った言葉だ。
陸はβ夫婦からの生まれたαで、義父もまたβだ。そして優秀な兄はβ。
αならβより出来て当然。
兄は塾にも行かずに帝都大に入学したのだからαの弟は容易だ。そう周囲のβは判断したのだ。まぁ、その優秀な兄も恋人のαに勉強をみて貰っていたから実際には家庭教師に依頼していたようなものだが。
α、Ωの混血が進み、α遺伝子Ω遺伝子双方を持つ者も多い。バースを決定づけるのは、その因子を受け止めるのに適した器を持つか否かだ。
そして、陸のα因子を受け止める器は小さく、それが陸を下位αにさせている。下位αのポテンシャルは低くβとさほど変わらない。塾も家庭教師もなしに日本の最高学府である帝都大に合格するなどほぼ不可能だ。
それでも陸は合格した。
『αならば当然』
『京極ならば当然』
けれど、何もせずに受かったわけじゃない。『当然』だから褒められる事もない。
陸の頭をポンポンとすると陸が叫んだ
「羽田!」
「?え?」
突然、何?
「操縦士が選ぶ美しい夜景に羽田が入ってるらしいです!感動するらしいです!羽田の夜景を見るとか花火を上から見るとか!せっかくなんで楽しんではいかがですか?」
…………恐らく陸は、私に違う取得動機を与えたいのだ。
「陸は見たいの?」
「はい!」
そう、なら私は君の為に取ったんだよ。未来に君に出会い、君とデートするために幼きころ免許を取ったのだ
「わかった」
今度連れて行ってあげるよ。二人のご褒美だね
「あ、富士山が遠ざかる。写真を撮らなきゃ!」
陸がいそいそとスマホを取り出す。
うん。カメラを構えるその仕草までかわいい……
カメラ…!
陸のスマホが新しくなっている。何故、このタイミングで。中のデータはどうなってるのか。コンちゃんとやらの情報は?
「ヘリコプターならではの特権ですね。飛行機だとこんなに低い高度では飛ばないし!」
陸がニコニコしながら言う。私も平静を装って答える。スマホに言及して陸の警戒心を煽りたくはない。
「陸、沢山撮っておこう?ヘリコプターならではのアングルだからね。ほら、海も見えるよ。」
別荘に着いた後、『富士山の…』とうんちくを伝えて陸のスマホ二人で覗きこめるようにしたい。別に顔を近づける口実が欲しいわけではなく、スマホを観察操作出来るようにする口実のためだ。…………陸の吐息を感じる距離…。
千葉が私の爪先を軽く蹴る。
分かっている。こんな狭い場所で下半身を滾らせていればコンちゃんとやらを私の運命と思っている陸ですら気が付いてしまう。飢えた獣を隠さねば。
「本当だ!山と海が一度に見えるなんて贅沢ですね。なんか日本の自然の美しさを一度に味わってる感じがする。」
陸が振り返る前に情欲は何とか消せたようだ。満面の笑みの陸に言う。
「そうだな。秋の紅葉や冬の雪景色もまた素晴らしいよ。」
今まで私は景色を美しいなんて思ったことはない。だが今、陸と共に見る海も富士山もとても魅力的だ。
陸は私に様々な感性をくれる。
今日だって単なる晴天でしかないが、陸ごし見る空はとても青い。
「季節を変えてまた来よう。違った景色が見られる。」
私がそう言うと、陸が曖昧に笑った。それに気が付かないふりして続ける。
「雪を抱く富士山を上から見るなんてヘリコプターの特権だ。普段は見られない景色を間近に楽しめるのは貴重だよ。」
陸が困り顔をみせる。かわいい、けれど…陸は今回を最初で最後にしようとしている。コンちゃんのためだろう。
そんなΩに私は興味ない。いや、陸の想い人という意味においては憎しみを感じ、抹殺する為の情報は欲しているが。
「そういえば、猪瀬さんが向こうでするアクティビティについて予習しておけと言ってましたが……。」
陸が話をそらす。あからさま過ぎて、普段ならかわいいと思える困り顔にも憎しみを覚える。
そんなにそのΩが大事?
私という運命よりも?
狸寝入りの千葉が私の爪先を軽く蹴る。
……私の顔が嫉妬に歪んでいるのだろうか…。
でもね、陸。今なら全てが意味ある事に思えるんだ。陸を守る為に護身術も必要だ。陸を満たす巣を作るには金も必要だ。そして……
陸が私の襟首を引っ張る
「それでも凄い事です!操縦士免許は取るのも維持するのも労力がかかります。いくら貴方でも…」
…………『当然』。私は最高位αだ。操縦士免許は持っていて当然だし、学生と経営者の二足の草鞋も当然だし、恵まれた身体能力も当然だ。そう、全てが当然な事と受け止められるのだ。出来て当然
『いや、神様じゃあるまいし。京極様だって人間だから』
私の集中力が切れかけた時に陸は休憩を提案し、私の部下がソレに反対した時に陸が言った言葉だ。
陸はβ夫婦からの生まれたαで、義父もまたβだ。そして優秀な兄はβ。
αならβより出来て当然。
兄は塾にも行かずに帝都大に入学したのだからαの弟は容易だ。そう周囲のβは判断したのだ。まぁ、その優秀な兄も恋人のαに勉強をみて貰っていたから実際には家庭教師に依頼していたようなものだが。
α、Ωの混血が進み、α遺伝子Ω遺伝子双方を持つ者も多い。バースを決定づけるのは、その因子を受け止めるのに適した器を持つか否かだ。
そして、陸のα因子を受け止める器は小さく、それが陸を下位αにさせている。下位αのポテンシャルは低くβとさほど変わらない。塾も家庭教師もなしに日本の最高学府である帝都大に合格するなどほぼ不可能だ。
それでも陸は合格した。
『αならば当然』
『京極ならば当然』
けれど、何もせずに受かったわけじゃない。『当然』だから褒められる事もない。
陸の頭をポンポンとすると陸が叫んだ
「羽田!」
「?え?」
突然、何?
「操縦士が選ぶ美しい夜景に羽田が入ってるらしいです!感動するらしいです!羽田の夜景を見るとか花火を上から見るとか!せっかくなんで楽しんではいかがですか?」
…………恐らく陸は、私に違う取得動機を与えたいのだ。
「陸は見たいの?」
「はい!」
そう、なら私は君の為に取ったんだよ。未来に君に出会い、君とデートするために幼きころ免許を取ったのだ
「わかった」
今度連れて行ってあげるよ。二人のご褒美だね
「あ、富士山が遠ざかる。写真を撮らなきゃ!」
陸がいそいそとスマホを取り出す。
うん。カメラを構えるその仕草までかわいい……
カメラ…!
陸のスマホが新しくなっている。何故、このタイミングで。中のデータはどうなってるのか。コンちゃんとやらの情報は?
「ヘリコプターならではの特権ですね。飛行機だとこんなに低い高度では飛ばないし!」
陸がニコニコしながら言う。私も平静を装って答える。スマホに言及して陸の警戒心を煽りたくはない。
「陸、沢山撮っておこう?ヘリコプターならではのアングルだからね。ほら、海も見えるよ。」
別荘に着いた後、『富士山の…』とうんちくを伝えて陸のスマホ二人で覗きこめるようにしたい。別に顔を近づける口実が欲しいわけではなく、スマホを観察操作出来るようにする口実のためだ。…………陸の吐息を感じる距離…。
千葉が私の爪先を軽く蹴る。
分かっている。こんな狭い場所で下半身を滾らせていればコンちゃんとやらを私の運命と思っている陸ですら気が付いてしまう。飢えた獣を隠さねば。
「本当だ!山と海が一度に見えるなんて贅沢ですね。なんか日本の自然の美しさを一度に味わってる感じがする。」
陸が振り返る前に情欲は何とか消せたようだ。満面の笑みの陸に言う。
「そうだな。秋の紅葉や冬の雪景色もまた素晴らしいよ。」
今まで私は景色を美しいなんて思ったことはない。だが今、陸と共に見る海も富士山もとても魅力的だ。
陸は私に様々な感性をくれる。
今日だって単なる晴天でしかないが、陸ごし見る空はとても青い。
「季節を変えてまた来よう。違った景色が見られる。」
私がそう言うと、陸が曖昧に笑った。それに気が付かないふりして続ける。
「雪を抱く富士山を上から見るなんてヘリコプターの特権だ。普段は見られない景色を間近に楽しめるのは貴重だよ。」
陸が困り顔をみせる。かわいい、けれど…陸は今回を最初で最後にしようとしている。コンちゃんのためだろう。
そんなΩに私は興味ない。いや、陸の想い人という意味においては憎しみを感じ、抹殺する為の情報は欲しているが。
「そういえば、猪瀬さんが向こうでするアクティビティについて予習しておけと言ってましたが……。」
陸が話をそらす。あからさま過ぎて、普段ならかわいいと思える困り顔にも憎しみを覚える。
そんなにそのΩが大事?
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