最上位αの初恋

認認家族

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『え!?青島、童貞なの!?』
 A1に側近候補の声が響き渡る。
『う、五月蝿い五月蝿い!』
 陸が真っ赤になっていう。慌てる様子も可愛い。
 そうか、陸は童貞か。
 調べでは彼女がいたという過去はなかった。
 まっさらな陸。
 私と出会った以上、もう生涯童貞だけど後悔はさせないくらい愛してあげるから。私に抱かれた時に涙する為のペニスなんだと教えこんであげるから。
 そう思っただけで、下半身が熱くなる。
 ……
 席を立つと猪瀬が僅かに目を逸らしながら頷いた。『いってらっしゃいませ』といった所か
 けれど、ソレは一瞬で落ち着いた。

『コンちゃんに捧げるからいいの!卒業したら番う約束してるから!』
『…………!』
 私の陸が誰かに汚される!
 怒りで頭が真っ白になった。
『た、貴嗣様……』
 青ざめた猪瀬に声をかけられて慌てて威圧を緩めた。
 猪瀬以外は皆膝をついていた。陸に至っては失神して倒れている。抱き上げてソファに横たえた。

「ごめん、コンちゃん……」
 意識もないまま、陸が呟く。
コンちゃんとやらの事を秘密にしようとしている陸だ。とっさに結婚の予定を口にしてしまったことを反省しているのだろう
 ……

 陸は何故かコンちゃんとやらを私から守ろうとしているのだ。
私が、私の運命は君なのに。
コンちゃんとやらと会ったところで番ったりはしない。
けれど、陸はそれを警戒してコンちゃんの事を秘密にする。
それが、「コンちゃんとやらを守ることになると思っている。
……それは確かに正しい。
私がコンちゃんとやらと出会ったら?
陸をとらえているコンちゃんを許しはしない…。

猪瀬を陸の家に忍び込ませた。
 番の部屋に他のαが入るなんて言語道断だが、『青島が確実に不在な状況が必要なんです』と言われれば、仕方が無い。私が陸を引き留める方が良いのだ。猪瀬に対しては言い返す陸だが、私に対しては意図的におもねるようにしている。私に気に入られたいと思っているのではなく、私に気に入られたいと思っていると思われたい、そんな行動をとる。
 …………私はすでに陸のものなのに。

 猪瀬からの報告は芳しくなかった。
 おおらかな陸らしくない厳重な侵入対策。
 一度目は何もせずに退散するしか無かった。ドアを開けて終わりだった。二度目は千葉があらゆる準備をして臨んだが、それでも引き出しの中やパソコンを探る事はできなかった。三度目、ようやく開封出来た引き出しの中にコンちゃんとやらに結びつくものは無かった。千葉は、探っている事が露見したくなければパソコンは諦めろといったらしい。猪瀬はそれに従った。

 猪瀬が陸の部屋の写真を提出してきた。
 見ただけで悟ってしまった。陸は、αのままでは私のものにならないと。
 部屋は生活感のない、陸らしからぬ部屋。無駄な物がない部屋。
「青島の部屋は違和感だらけでした。その…………それこそ上位αの執着の様に青島を守る部屋でした。共に訪れたのが千葉でなければ忍び込んだのが露見していたと思います」
 私の前で番が他のαに執着されているなど言い難かったろう。だが、それは的外れな感想だ。
 私には…………陸の、コンちゃんとやらを守る執着にみえる。
 陸はミニマリストではない。寧ろ育った環境のせいか勿体無い精神で溜め込もうとする。物がない恐怖、それを跳ね除けてまで余分のない生活をする、己を顧みず番のΩの為に耐える、これがαの執着と言わずしてなんというのか。

「いっその事、ビッチングを急ぎ、その後に処分されては?」
 猪瀬がいう。
 方法を知らない猪瀬は既に私が陸に対してビッチングをしていると思っていたようだが、実際には違う。
 私は陸のバースなどどうでも良かった。
 Ωであれば側にいてくれる、そのようなものは幻想だ。
 幼いころ、母に側にいてほしかった。『僕のママはΩだからずっと家にいてくれるの』同級生の言葉を真に受けた。そして、母がΩになる事をのぞんだ。だが、母はΩに変化しても専業主婦になる事はなかった。社長として現在も働いている。父も母もより離れていった。結局私は一人……。
『大丈夫、 一人じゃないよ、そばにいるよ……』
 陸の暖かい声……。

「貴嗣様?」

 猪瀬の声にハッとする。

「ビッチングを早められては?」
「お前も高橋と同じ所に行きたいか?」
「い、いえ!」
 ひきつった笑い。
 ……陸をΩにしたからといって私の側にいるとは限らない。だが、確実な事はαのままでは私のモノにはならない。コンちゃんへの執着を切るにはαで無くすしかない。いや、執着が消えても恋慕は消えない。
『大丈夫、 一人じゃないよ、そばにいるよ……』
 嘘つき……
 だから、私を捕まえたのだから、陸、君も私に捕まりなさい
 αの器を壊しても恋慕は残る。執着は消えても……
 陸、君をビッチングするよ。
 Ωになって私と番おう?番ってしまえばそんな粉々になった想いなんて吹き飛んで私だけしかいらなくなる。

『大丈夫、 一人じゃないよ、そばにいるよ……』
 うん。側にいてよ、陸
 側に居させるよ、陸……。
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