Ωにレイプされたαの未来は……

第一章

26

～～～～～～～～～～～～～～～～～
鬱です。閲覧注意です。自殺表現があります
鬱です。
～～～～～～～～～～～～～～～～～



佐藤は入院した。

佐藤はレイプ犯の津川を訴えなかった。
Ωのそれはβのよりさらに複雑だ。番契約が成されてしまったのだから。訴える事は一人でヒートを過ごす事と同意語、Ωのヒートは苛烈で、番と過ごせないΩは皆短命だ。

佐藤がすがるようにこちらを見てくる。だが、俺にはどうしようもないのだ。
俺と津川ではランクに雲泥の差がある。だから、本気で俺が佐藤を欲した場合、契約を上書きできる可能性があるのだ。都市伝説的に言われている『運命の番であれば契約を上書きできる』は、この事に尾ヒレが着いただけだ。運命でなくとも、佐藤と俺が本気で番契約を求めあえば上書き可能だ。
けれど、身代わりに過ぎない佐藤にそこまでの思い入れはない。下手に試せば、アナフィラキシーを起こす可能性が高い。

佐藤の縋るような目に津川がキレた。
番契約直後に一緒にいないとΩが不安定になるのは有名だ。だが、あまり知られていないがαもまた、不安定になることがある。すでに複数の番を持ったαですら、唯一と求めた相手を番にした場合、その唯一との契約直後に引き剥がされれば不安定になるのだ。Ωは一人で自滅するがαは周囲を巻き込むから余計にたちが悪い。妲己の歓心が欲しくて残虐行為に走った帝辛のように。

だが、帝辛はまだましだ。それで妲己が彼を見たのだから。歴史上の人物を追うといつも不安になる。
俺も智則の視線が欲しくて残虐行為に走ったとして、智則は俺を見てくれるだろうか。いや、見てくれない。智則の記憶の中にいる俺が消されるだけだろう。

キレた津川は、俺の目の前で佐藤をヒートにして犯した。
番関係にある二人ならば、意図的に相手をラットやヒートにもっていけるのだ。
嫌だ嫌だと泣きながらも番を求める佐藤が憐れだった。
そんな佐藤を屈服させて無理矢理繋がっただけで安心する津川もまた、哀れだった。

その後、佐藤が大学に顔を出す事はなくなった。噂では病んでしまったらしい。対象的に、津川はそんな佐藤でも得る事ができて気力に満ちていた。
αは愚かだとつくづく思う。番の事となると、理知が失われる。佐藤の性格を考えれば、浮かれている場合ではないのに。

そして、風の噂で佐藤が自殺した事を知った。
そうだろうな。
幽鬼のようになった津川を見た。俺と目が合うと、奇声をあげて飛びかかってきた。
「お前のせいだお前のせいだ」
首を締めてくる津川を羨ましく思った。加害者なのに被害者ぶれる津川が。佐藤の性格上、無理に奪えば死を選ぶ事位予想がつくのに、分からなかった愚鈍さが。その愚鈍さ故に一時でも佐藤を手に入れられた津川が羨ましかった。
俺は、予測がつくから。智則も佐藤と同じ道を辿るから。
だったら……どうせ希望がないなら…………

「なんで抵抗しないんだ！」
突然、息ができるようになって、むせた。岡田が津川を引き剥がしてくれたようだ。
抵抗しなかった俺を責めるけど、お前も佐藤の自殺を知った時に俺を殴ったよな。
『お前ら上位種には心はないのか！？』
そうだよ。番に出会うまでは心なんてないんだよ。智則に出会って心が生まれて離れて心が死んだんだ。だから、智則以外の為に自ら動くこともないのだ。命令されれば動くよ、アンドロイドみたいものだから。佐藤は命令してこなかった。それだけだ。

「それも良いかなと思ったんだよ」
俺の言葉に岡田が泣き出した。上位種って下位より生きづらいんだなって。

また虚ろになった津川に、箱を投げ渡した。
「？」
「佐藤が、用意していた。事故だけど、番ったのだから真剣に向き合いたいと。監禁されて取りにいけなかったから、ウチの系列店だし俺が受け取っておいた。」
与えられた環境の中で必死により良くしていこうと模索していた。自分を求めてくれない俺より本気で求めてくれる津川とならなんとかと、俺への思慕と津川、揺れ動く心で必死に前を向こうとしていた。

番成立直後を引き剥がされた津川のトラウマは大きくて、待つことができなかった。不安障害で佐藤を見れてなかった。
箱を開けた時、津川は何を思いどう動くのか。
予想がつくし、…………正直羨ましいと思う。