Ωにうまれて

認認家族

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スパン
矢が的に吸い込まれる音で我に返った。

決勝戦。
空気がそれまでとは全く違う。弓が神事なのだとしらしめるような厳かな、それでいて張りつめた空間。
そんな中にあっても、智則は静謐だった。
今朝の、僕に睨まれて慌てて釈明するような可愛さは全く見受けられない。僕を守る騎士だけどやんちゃで愛嬌のある智則はそこにいなくて、ただただ美しい人ならざるモノ

何故か涙が出た。
智則は時折、諦めというか、達観といった雰囲気をみせる。いままで、智則に何があったのだろう。僕と同じ、どうにもならないものに翻弄されたのだろう。ただ、それは僕とは違って前向きなものだ。実際、αに負けた今でも智則は凪いでいる。智則は決勝戦でも隣のαと戦っていたわけではなく、ただただ、自分と向き合っていただけなのだ。悔しさを滲ませるα達を尻目に、凛としたたたずまいを魅せる智則。
何者にも汚されない……僕はこの人に望まれているのだ。
初めて、津守との関係を絶ちたいとおもった。
智則はこの為に僕をインハイの応援に呼んだのだ。
普通に告白されても僕は来年の卒業までという期間限定交際しか了承しなかったろう。
智則実家なら、1億ですら用意できるし智則自身も何かで稼いでいる節がある。
智則との真剣交際の障害は、僕自身、僕の弱さだったのだ。
決勝戦ですら、穏やかでいられる智則に応援なんて必要ない。彼は自分の強さを見せて僕に覚悟を迫ったのだ。
……僕は、僕も強くなる。
智則の隣に。

ドクン
心臓の鼓動が強くなった。
え?
ヒート?
なんでこんな急に?心に躰がつられた?
慌てて抑制剤を飲んだ。強いやつを何錠も。
オーバードーズなんかより、ヒートでドロドロになった自分を清廉な智則に見られる事の方が怖かった。

智則の所に行くと、男と談笑しているのが見えた。僕を遠くに捉えて、更に笑顔になる。
柴犬みたいに喜びを表しながら僕の方へと走ってくる。笑顔が曇る。僕の顔色が悪いのを見て取ったのだろう。
僕は抑制剤の過剰摂取で頭がグラグラしていた。
それでも、智則へと手をのばす。

けれど、この手は智則に届く前に、誰かに奪われた。
骨が軋むほど強い力で抱きしめられる。
「先輩!」
それでも、智則……、と手をのばせば首に痛みがはしった。
本能的に何が行われたかわかった。
「ヤダ!智則助けて!智則!」
それが、捕食者の気に障ったのだろう。首を噛む力が増し、僕はブラックアウトした。







    
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