【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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今日も今日とて残業で。
今日も今日とて拓也とバーに行き酒を飲む。それなりに回ってきたタイミングでいつも通り拓也オススメの酒を飲まされる。

……大分、回っているなぁ……
「架向君、大丈夫かい?」
「らいりょ~ぶ」
なんとか答えるけれど、ろれつが回らない。
「……もう、今日は帰ろうか」
腕をとられ店外に出る。腰に回っている手に悍ましさを感じる。
振り払いたい、振り払いたい……!
猪瀬さん……!

「架向君、今日は……」
「架向!迎えにきたぞ!」
幸人の声に顔をあげる。なんでここが……

「ありがとうございました。架向は俺が家まで連れて帰るんで」
そう言って、強引に俺を拓也から奪い取った。

「たくやさん~またあしたね~」
迎えの車の中からケラケラ笑いながら手をふる
「おぅ。寝坊すんなよ」
獲物を逃がしてしまった悔しさなんておくびにもださず、笑顔で手を振り替えしてきた。
……

「かな、大丈夫か?」
幸人が心配そうに尋ねる。
「…………余計な事を」
あのまま拓也とタクシーに乗っていたら、拓也の家に連れ込まれていただろう。拓也には焦りが見えたから。もうすぐ信輝さんが戻ってくる。拓也の過去の経験ではその時迄に俺のΩ化はある程度の目処がたっているはずだった。受容体を傷つけられている時、そのαは加害αに懐くようになっていると代々伝わる書物には書かれていた。……正にストックホルム症候群だな。
親父があの日苛烈になったのも父さんのストックホルム症候群が薄くなってきている恐怖心からだったのかもしれない。新たな加害行為で何とか繋ぎ止めようとしたのかもしれない。……知らんけど。理解は出来るけど共感は全くしないけど。

拓也は俺の懐きように、受容体のひび割れを確信していたはずだ。そろそろΩの香りが少ししてきてもおかしくないはずなのに、香りがしない。信輝さんも帰ってくる。ビッチング計画が露見するかもしれない。だから強行策に出ようとしていた。
直接俺に飲ませて速度を早めようとした。既に依存し始めている相手ならば簡単だ。
過去、ヤツは本気の遊びで何人ものαをΩにしてきた。Ωの急所、項を噛みながら精液を体内に注ぎこむほうが効果的と経験則で知っている。
ビッチングされる方に意識があろうと無かろうと関係ない。混血が進んだ今、どんなαでもΩ因子を持っている。うなじを噛まれながらビッチングの意図を持つ精子を精子を受け入れればΩ因子は活性化する。
だから……拓也は今日は俺を昏倒させる程強い酒を勧めていた。ぐるぐると目が回る。

「もう、やめよう?」
幸人が泣きそうな顔で言う。
「Ωになったって猪瀬さんは手に入らない。」
「五月蝿い!」
怒りの余りに威圧を放った。

幸人がうめき、運転手が昏倒する。
慌てて後部座席から身を乗り出してハンドルを握ってハザードをつけて左に寄せる。
「幸人!」
幸人がふらふらになりながらもハンドルに手を添えた。すかさず手を離して助手席に飛び移りブレーキを踏む。
何とか、事故にもならずに車を止めれた。
「「………はぁ……」」
酔いが一気に覚めた。
「……幸人、ごめん……」
苛ついて威圧を放つなんて、小学生のガキじゃあるまいし。

「いいや。大丈夫だよ。ただ……架向、これで分かっただろう?上位αの俺がヤラれる位の威圧を放てるということは、かなの受容体はノーダメージなんだよ」

「……」

覚悟を決めなければならない。
おぞましい、なんて言っていてはΩになることは不可能だ。
拓也に…抱かれる。
大丈夫、猪瀬さんに勧められて閨教育は受けた。相手は好きでも何でもないΩ。気持ちよかったけれどただそれだけだった。今回だって同じだ。好きとかそんな感情はなくただ…目的のために体を重ねる、それだけだ。

「かな…俺は反対だ。拓也にお前をビッチングするほどの能力がなければヤラレ損だ。あんなゲスと…」

幸人はずっと反対していた。
最高位αの親父の息子である俺が傍系なんかにビッチングされる訳が無いと。俺より上位で京極の血を持つαでないと無理だと。そんなのに該当するαなど、一人しかいない。親父だけだ。そして親父はそんな面倒なことをしたりはしない。
何より……
「拓也以上に適任はいないよ…」

京極の血が強くても想いがなければ、フェロモンに受容体を攻撃する物質が混じりはしない。
血の濃さだけなら拓也より信輝さんの方だ。けれど、信輝さんには実績がない。俺の変化が微々たるものだった場合、不安になって早々に諦めてしまうだろう。拓也には、自分がビッチング成功者だという自信があるから粘り強く継続するだろう。

幸人が唇を噛み締めた……。

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