【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

38

猪瀬さんが回復したときいて、猪瀬さんの家に行った。
数分だけ、たった数分だけ顔を見るだけだ。

父さんが心配しないように、一応報告だけはしておいた。

会って開口一番に猪瀬さんに謝罪された。

「架向、悪かったな。お前を利用した」
リビングで深々と頭を下げられた。
「いいよ。俺も…猪瀬さんに酷い事をしようとしていたんだから」
番契約を過信していた俺と、番契約を軽視していた猪瀬さん。あの娼館のΩを見た俺とあの娼館のΩよりも父さんを信じた猪瀬さん。
もしも父さんに気づかれることなく親父に利用されることなく番契約を締結していたら、猪瀬さんと俺の関係はどうなっていたのだろう。
今までの猪瀬さんの思考がぶち壊わされて、俺といることに幸せを感じるようになっていた？
契約につられることもなく父さんへの想いを保ち続けて、誰よりも父さんの心に寄り添えると喜びを感じるようになってた？
あの親父が存在している以上、その仮定は無意味だけど…実際に、そうなっていたら猪瀬さんは生きてはないし。
でも考えてしまう、番契約の強制力を
だって俺の唯一の…

「架向？」
首を振った
「猪瀬さんは、もう大丈夫？」
「ああ…いろいろすっきりしたよ。もう、陸様を困らせることもないだろう」
……猪瀬さんは大分痩せた。当然だろう。執着するΩに己の手で他のαをあてがうなんてすれば、上位αの苦痛は計り知れない。たとえそれが呪いのように服従を要求してくる京極であろうとだ。猪瀬さんの本能は自身を守るために父さんへの執着を断ち切ったのだ。……二人が番関係だったら、相手が京極でなかったら、別だったんだろうけど。
「そっか…」

良かった。少なくとも父さんはもう俺のライバルではない。
………親父はどこまで計算していたんだろう。
ぞくりと悪寒がした。すべてを見通す目を持っているのか、あのケダモノは…。

「元気になってくれて良かったよ。……猪瀬さん、俺もごめんなさい。ビッチングなんてしようとして。もうそんな事はしないから安心して？親父に猪瀬さんが殺されるなんてことも起きないからね！」
「そうか」
猪瀬さんが笑いながら俺の頭をぐしゃぐしゃした。
……これはもう、癖、なんだろうな…
その証拠に、俺を見る目は普通だ。今までのように何かを懐かしんでいるような感じではない。
「うん！じゃぁね！」
猪瀬さんの家を出た。

しばらく、しばらくは会わない。
あいたいけれど、無意識にα受容体を壊すフェルモンを出してしまうかもしれないから。
猪瀬さんほどの上位αなら大丈夫だとは思うけれど、万が一があってはならない。親父のお目こぼしは一回きりだ。

急ぐから
頑張るから。
だから待ってて猪瀬さん




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ちょうど短いけれど、区切りの問題でアップしちゃいます