【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

文字の大きさ
上 下
227 / 243

36

しおりを挟む
 ドアへと歩きながら思う。
 幸人は何時からいたのだろう。
 俺が気づかなかった以上、それなりに距離をとっていたはずだ。
 俺が飛び降りないという確証はなかったはず。親父から自殺させるなと厳命を受けていただろうに、俺が落ちつくまで待っていてくれた。
 ……俺が飛び降りていたら、どうするつもりだったんだろう。親父は許さないだろうし。

「俺が足を滑らしていたら、どうするつもりだったんだ?」
「え?追いかけるよ?」
「…………」
 当然の様に言われて、猪瀬さんを思った。まるで呪いの様な奴隷契約の様な京極家と猪瀬家の結びつき。
『主君が亡くなれば後を追います』それを当たり前の様にいう。
 そんな猪瀬さんだから父さんと番って、余計に苦しんだんだろう……。
「冗談だって」
「…うん」
 笑って幸人が言ってくれるから、ソレに誤魔化される事にした。

ウチの玄関先まで幸人が送ってくれた。
「ホントにウチにとまらなくて大丈夫か?」
門にかけた俺の手を上から押さえて幸人が言った
「うん。父さんも心配してるだろうし」
「……分かった」
不器用だよな……と幸人が呟いた。
なに?とそっちをみるけど、首を振るだけだった。
玄関を開けて振り向くと幸人が手を振っていた。
頷いて入っていく。
だから…幸人が呟いた言葉は俺に聞こえる事はなかった。
「お前が学校に行くだろうって連絡したのは貴嗣様だ。……見てなきゃ分かんないだろ、そんな事…」


リビングに行くと、父さんと親父がいた。
「おかえり、架向」
強張った笑顔に気が付かないふりで、ただいまと挨拶をした
「どこ行ってたんだよ。スコーン食べちゃったからな?」
「うん」
父さんには気が付かれていない。良かった。
一方で親父の俺をみる目は険しい。けれど、それに負けていられない。
ズタボロにされた父さんの矜持。俺と猪瀬さんを守る為に棄てた矜持。ならば、俺はそれに報いなければならない。

「お茶淹れるよ」
父さんがソファから立ち上がろうとして、ふらついた。親父に酷使されたのだろう。親父が手を伸ばすが、父さんは無視した。
『ありがとうな』
普段なら、単純によろけただけならそう言って手をとっていたはずだ。
父さんは親父を尊敬していた。小さな会社を経営している父さんだから、親父をより尊敬していたのだろう。
『俺がアイツを嫌っているように見えたか!?』
いいや、父さん。恋愛感情は無くても、慕っているようには見えたよ。
番に拒否されて呆然と突っ立っている親父。自分が何をしたか自覚は無いのだろうか。
…………無いんだろうな。

『番ってしまえば、Ωなんてどうとでもなる』
…親父も俺もそう思っていた。
だからこそ、ビッチングしてでも手に入れようとした。
けれど、その結果がコレだ。
心までは支配できない。体を得ることはできても心は得られない。
……親父がもっと下位だったらそれでも良かったのだろう。けれど、最高位のαともなれば番に対する執着は強い。体だけででは満たされない、番の心も欲して、得られなけば満たされずに心が疲弊していく。
それでも、父さんに定期的にヒートが訪れていた時は、まだマシだったのだろう。その時にささくれ立った心を癒していたのだ。ヒートの時に延ばされる父さんの腕を、自分を求める腕と思うことで。……実際にはヒートの苦しさを緩和する薬剤を求めただけなのだろうけど
それでも、その腕を曲解することで正気を保ってこれた親父は、父さんのヒートが無くなって理性が薄れてしまったのだろう。
『陸から私を求めて』
なんて惨い事をと思ったし、今でも残虐な行為だと思う。
その一方で、憐憫を覚える。心をくれと、仮初でもいい、心をくれと懇願していたのだ。
不可能なことはない、最上位αなのに…
ヘテロの父さんを無理矢理ビッチングして、結果がこれだ。
そして…親父ほどではないにしろ、俺もかなりの上位αだ。
猪瀬さんを無理矢理ビッチングしても、結果は目の前の夫夫にしかならない。
猪瀬さんも、俺も、幸せにはなれなかっただろう

























~~~~~~~~~~~~~~~~~~
京極様はさすがに『自分が何をしたか』自覚ありますよ。
陸の信頼を失ってしまっ行動をしてしまった自覚はありますよ~
ただ、失ったと思っていても、態度にあらわされると、実感が伴うのです…
しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

処理中です...