【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

文字の大きさ
上 下
226 / 243

35

しおりを挟む
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自殺未遂表現があります。
苦手な方、体調の良くない方は、この話は飛ばしてください
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




そのまま自宅に帰る。
父さんも親父も在宅で…二人はリビングにいた。
「おかえり、架向」
何事もなかったかのように父さんが俺に声をかける。けれど、ぎこちなさは完全には消せない。
「うん…」
父さんになんて声をかけていいのかわからなかった。
ごめんなさいもありがとうも、すべてが父さんを傷つける。
絶対的王者、専制君主な親父から俺を守るためにはソレしかなかったのだ。
どうすればいいのかわからなくて、自室に逃げ込みたかった。けれど、父さんが怯えている。俺に軽蔑されたんじゃないかって怯えている。

『ビッチ!』
ああ、俺は父さんになんて酷い事を言ったのだろう。
猪瀬さんと番った時の状況なんて詳細は知らない。だけど、今回みたいなものだったのだろう。絶対的王者、残虐な王を前に守らねばならないものがあるなら、自分を顧みている余裕などないのだ。
『ビッチ!』
今、父さんはおれの言葉を思い出しているかもしれない。
覆水盆に返らず。
なんで、俺はこんなにも愚かなんだろう…

「…お土産のスコーンがあるんだ。父さん達も食べる?」
「ああ」
親父が返事をする。その声に父さんが震える。怖いんだ…当然だ。それでも父さんは今まで通りに戻りたいと思っている、表面上だけでも今まで通りの家族に。だから、俺も気が付かないふりで紅茶を用意した。

「はい。美味しいよ」
父さんの目に絶望がうかんだ。
「コンちゃん…」
「あ…」
そうだ、父さんが今回の事を最も知られたくないと思った相手、それが俺と菫さんだったのに。菫さんの所でもらったスコーンなんて渡せば…!

家を飛び出した。逃げ出した。傷つけた父さんを見れなくて。
なんで、なんで俺はこんなに考え無しなんだろう。
猪瀬さん!

猪瀬さんの家に突撃した。
何とかなりたくて、猪瀬さんの気配を探した。けれど、家内は人の気配もなくて。猪瀬さんを少しでも感じ慰められたくて寝室のドアを開けた。
……!
点滴とチューブにつながれた猪瀬さんがいた。
あの場を逃げ出した俺。
『猪瀬の所に行ってくる』
千葉さんが、千葉さんが手配してくれたのだ。父さんを失って壊れてしまった猪瀬さんに医療を受けさせてくれた。
『俺が守るんだ』どの口でそんなことをいえた。
千葉さんはその手配で帰りが遅くなった。菫さんが夜勤から帰ってくるまで本来なら時間があった。菫さんに知られないように事の処理だって出来たはずだ、俺が泊まらなければ

なんで、なんで俺はこんなに人を傷つけるのか!
無我夢中で走った。
気が付いたら、校舎の屋上にいた。

発作的に柵を乗り越えて縁に立つ。
なのに、なのに足がカタカタと震える。
死にたいと思うのに、でも足が震えて一歩が出ない。
情けない。この期に及んでまだ生きたいと心の奥底で思っているのか。だから震えるのか
猪瀬さんを傷つけて父さんを傷つけておいて菫さんを悲しませて、自分は……。
どうして。どうして。
誰か、不甲斐ない俺の背中を押してくれ。


どれくらい経っただろう。
不意に人の気配がした
「…気がすんだか?」
「いつから……」
声をかけられて後ろを振り向くと幸人がいた。
「貴嗣様から連絡を受けて。『陸を苦しめることは許さない』って伝えろって」
…自殺するな。陸が悲しむ。そう言いたいのだ。
そうだ、父さん…父さんが身を挺して庇った息子がそれが原因で自殺なんてしたら、それこそ父さんが…。本当に俺はどうしようもない利己主義だ…
『甘えん坊の世話なんてしている時間はないんだよ』
ホント、どうしようもない……
「何があったんだ?猪瀬さんは意識がないし…とりあえず、こっちにこい」

柵をまたぐ。
幸人はいつからいたのだろうか
「今日はうちに泊まるか?」
首を振った。親父の声にすら怯えていた父さんだ。二人っきりにはさせれない。
俺が帰ったとき二人はリビングにいた。父さんは親父に近付いてほしくなかっただろうけど、そんな配慮をする親父じゃない。父さんがあの家から出られない以上、俺はあの場にいる、それが父さんへの贖罪だ。




~~~~~~~~~~~~~~~~~
ブクマが1500を超えた!
いや~ありがたい。
放置状態の『努力…』や『変態天才……』も地味~にブクマが増えているから、嬉しい限りです。この作品を、ではなく、この作品を入口にして私の作品を気に入って下さるご新規様が増えているって事♪、と、勝手にプラス思考解釈
いや~、ありがたいですね~。
しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

処理中です...