【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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架向7

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 もやもやした思いのまま数日が過ぎた。

「か~な」
 中学校帰り、後ろからガバリと覆いかぶさられた。
「お前なぁ…」
 幸人ゆきとは側近候補でついでに言うと護衛、親父にとっての猪瀬さんみたいな存在だ。
 俺は京極の一人息子で利用価値が高い、だから幸人がそばにいる。
「あはは。う~~ん、今日も俺イイ男!」
 そういいながら路駐している車のミラーで前髪を直している。
「黒髪、身長175、6cmくらい、20代後半、男の多分Ω。けど、それなりに骨格はしっかりしていて標準的なβなかんじ」
「なに?俺一目ぼれされちゃった??」
 笑いながら言う。俺が引き継ぐモノを目的に思ってもない事を言ってくるのだ。そんなのに騙されるほど愚かじゃないのに
「そういうんじゃないくて…お前をすごく睨んでいるんだけど、心当たりは?」
 …親父関係?
 いや、親父関係の訳ないか。中途半端すぎる。幸人に気が付かれるくらいなら、素人だ。
「なぁんか、どっかで見たことある様な………あっ…。」
「何?知り合いだった?」
「いや、何でもない。怪しまれるからお前は振り返るなよ?」
「…わかった」
 アラサーの男Ωからしたら俺などαであっても、お呼びではないはずだ。なら、なんで?

 家に帰ると、お手伝いさんが
「番様方は道場に行かれてます。千葉様もいらっしゃってます」
「やった。俺も行ってくるね」
千葉さんがいるってことは、猪瀬さん俺の相手をしてくれるかも。
 道場は道を挟んだ向かい側にある。マシンなどもあるジムエリアだ。うちの中に作ったほうが便利だと思うけれど、父さんの願った家には存在してはいけない設備なのだろう。だから外付けにしたのだ。
週に一度、父さんは猪瀬さんから護身術を学んでいる。京極家の番に手を出すバカは基本的にはいないけれど、それでもそれを超えるくらいの恨みを親父が買っている可能性もあるからだ。特に…Ωの社会進出に貢献した親父は、一部のαに逆恨みをされている。番が絡むと常識が通じなくなるのは親父を含め上位αの特徴だ。そう、非常識というより、壊れると言った方が近い。だから御法度な事をしでかす…。

道場に着くと父さんと猪瀬さんが組手をしていて、千葉さんが指導をしていた。
「千葉さん、お久しぶりです」
「おお、架向かなた。また、でかくなったなあ」
「千葉さんに言われてもなぁ……」
 父さんが猪瀬さんに腹を蹴られて尻もちをついていた。
「青島、避けれないと判断するのが遅い。」
「はいっ」
 陸様……、そう言いながら猪瀬さんが手を差し出して父さんを引っ張り起こした。猪瀬さんからしたら、Ωらしくない体躯の父さんでも簡単に起こせる
 隙さえあれば兎に角父さんに触りたがる親父だけど、稽古つけは猪瀬さんに依頼している。稽古とはいえ、親父は父さんに手をあげるとかが出来ない。この間だって、いくら父さんが親父の名前を呼んで隙を作ったとはいえ反撃しようと思えばいくらでもできたわけで…。ただ反撃や防御することで父さんが下手に怪我するくらいなら素直に吹っ飛ばされたほうが良いと判断しただけだ。
 そう、親父は父さんに蹴りなんていれれない。猪瀬さんは違う。猪瀬さんは父さんを殴れる。

「猪瀬、交代するぞ」
 千葉さんの言葉に猪瀬さんが頷く。
 猪瀬さんとの鍛錬は週一で行われている。そこに不定期で千葉さんが参加して、途中から猪瀬さんと交代するのだ。手が空いた猪瀬さんは俺にかまってくれる。
『だったら初めから千葉さんが指導すれば良いのになんで?』
 そしたら、俺はもっと猪瀬さんにかまってもらえるのに…と思いながら、千葉さんに尋ねたことがある。
『メインは猪瀬。寝技は気の毒だから交代してやってんだよ。大人の事情』
 と返された。意味が分からない。『京極は猪瀬に立ち場を再認識させてんだろうな……』俺に聞かせるでもなくボソリと呟いていた。
 猪瀬さんの立ち場?父さんの相手を務めることで得られる自覚って何?
 最愛の番である父さんに触れる事を親父が許している、つまりは親父の信頼?それが千葉さんからしたら気の毒な事なの?
猪瀬さんに自分は寝技が不得手という自覚を促すため?以前父さんに指導しているところを見たけれど、さっくりといった感じだった。父さんが早々にブリッジやエスケープを出来るように加減して寝技をしてた。
一方で千葉さんはちゃんと教える。固められても逃れる術を父さんが体得出来るようにしている。マットレスの上でジタバタしたり、ブリッジを試みたり。まぁ、父さん程度では千葉さんはビクともしないけど。
それでも、父さんは諦めない。ガードポジションを取って千葉さんの隙をまつ。両足を使って千葉さんの腰を挟む。千葉さんの動きを制限してバランスを崩したところをひっくり返す、スイープ狙い。
けど、千葉さんがバランスを崩す事なんて無くて、大抵父さんがへたばるまで寝技を決めてる。
『寝技は気の毒』
…何が?

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