【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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架向3

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 猪瀬さんが、ソファに座る。
「それは?」
 父さんに持たされた紙袋を見て言った。
「ああ、スコーンとブルーベリージャムにその他色々なお菓子。出かけに父さんが猪瀬さんと食えって。」

 袋から諸々を取り出すと猪瀬さんの目がまん丸になった。珍しい。
「そのジャム……」
「ああ、父さんの手作り。猪瀬さんブルーベリージャムが好きなんだって?」
「ああ……陸様はそう思ってらっしゃるんだ。貴嗣様はイチゴジャム、俺はブルーベリー……覚えて下さっていたのか……」
 柔らかい笑み。
 ………………
瓶を開けてジャムを思いっきり乗っけてスコーンを食べてやる。
「おいおい……架向もブルーベリージャム好きだったのか。早い者勝ちだな」

……
別段、ブルーベリーが好きってわけじゃない。
なんか、なんか嫌だっただけだ。
全部俺が食べてやる。猪瀬さんが食べる分なんて残してやったりは……
「いてっ」
デコピンされた。
「コラ、夕飯食べれなくなっちゃうだろうが。と言っても、急だったからハウスキーパーが掴まんなくてな。外食になるが良いか?」
二人で食べに行くの、めずらしいかも!
「大丈夫。焼き肉食い放題行きたい!」
猪瀬さんの顔がウゲッとなる
「年寄りの猪瀬さんには脂はきついかなぁ?」
コツン。
「誰が年寄りだ」
あはは。そうだね、そこいらの芸能人より若くて魅力的だと思うよ。



店に入ると、食欲をそそる焼き肉の香りが店内に充満していた。
「どれだけ食べられるか見せてくれよ?態々、架向ご指定のこの店にしたんだからな。」
とても賑やかな店。父さん達と行く食べ放題に比べて俺位の歳かちょい上が多くて、皆無礼講感があって良いと思う。

席に着くと、店員さんがメニューを持ってきた。早速、カルビやロース、ハラミなどの定番の肉を注文した。
届いた肉を次々と焼いて行く。4対1の割合で猪瀬さんに渡していった。
暫くすると猪瀬さんが
「よし、覚えた」
「え?」
「焼くのは任せてくれ、架向のを見て学んだからな」
と自信満々に言い、炭火のグリルに肉を丁寧に並べ始めた。
笑ってしまう。肉を焼くのに学ぶも何もないじゃないか。
ああ…でも父さん達と三人で行った時も親父が似たような事をしていたな。

父さんの手をジッと見ているから、いつもの病気かと思っていたけれど調理方法を見て学習していたようだった。
『陸、架向、焼くのは私がやるから存分に食べなさい』
『よっしゃ!架向、元を取るぞ!』
父さんが満面の笑みで言って、ソレを見た親父がデレ~となっていた。
俺もお腹がはち切れそうになる位食べて、父さんが『もう無理!』って腹を擦って叫んでいたっけ。
…………変態親父はその直後に離席したけど、父さんは我関せずで、『甘い物は別腹だぞ!』ってデザート追加で頼んで、帰りの車で『苦しい』って言ってたな。
俺も満腹になって眠くなってウトウトしてる時に聞こえた会話
『ありがとうな、楽しかった……元は取れなかったけど』
『何言ってるの、7人前位は食べたでしょ』
『はは…そうだな。けど、エキストラ代を考えたら赤じゃん』
『チッ、演技の下手な奴らだ。次はないな』
あの時はなんの話をしているのか分かって無かったけど……。


「架向?どうした?箸が止まってる。時間が勿体ないぞ」
「上位αってのは肉も焼けないのかなって。親父も同じ事をしていたからさ」
「…………そうか」
「最近理解したんだけど、父さん達と食べ放題行く時って、実は親父は店を貸し切りにして、客はエキストラを雇っていたんだよ。どんだけ恨みを買ってんだか」
「…………陸様の無防備な姿を他の者に見せたく無かったんだ。けれど、陸様は家族連れで食べ放題に行ってみたかったんだろうな……幼き頃の陸様の小さな夢を叶える為の貴嗣様の妥協点だな。」
ずっと独身なのに、番の食べる姿すら見せたくないっていうαの執着は分かっているんだ。……いたんだろうか、猪瀬さんにもそんな風に思う相手が。

「おっと、いい感じに焼けたぞ」
猪瀬さんがカルビを僕の皿に乗せてくれた。
はっとする。慌てて一口食べると肉汁がジュワっと溢れ出して口の中に旨味が広がった気がした。
安い肉、けれど猪瀬さんが俺の為に焼いてくれた肉
「うん、最高だ!」
俺が叫ぶと、猪瀬さんは満足そうに笑った。

肉が焼けるのを待ちながら、学校での出来事を猪瀬さんに話す。時折、焼けた肉をひっくり返す音が心地よく、肉の焼ける香ばしい匂いが食欲を刺激した。
「…………成長期の食欲は凄まじいな。」
猪瀬さんが呆れたように言う。
当然!

その後も次々と肉を焼き続け、食べ続けた。大分にお腹がいっぱいになってきたが、猪瀬さんは
「まだまだ行けるだろ?」
と笑顔で僕を煽ってきた。その言葉に負けじと、俺はさらに肉を注文した

店を出る頃には、お腹いっぱいになり、大満足だった。
「今日は本当に楽しかった。ありがとう、猪瀬さん」
言うと、猪瀬さんは「また来ような」と笑顔で応えてくれた。
「ただ、次回はもう少し、良い肉を出す店にするぞ。あと、ちゃんと野菜も食えよ?陸様に顔向け出来ない」

「はぁい」

食べないけどね






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