194 / 243
架向3
しおりを挟む
猪瀬さんが、ソファに座る。
「それは?」
父さんに持たされた紙袋を見て言った。
「ああ、スコーンとブルーベリージャムにその他色々なお菓子。出かけに父さんが猪瀬さんと食えって。」
袋から諸々を取り出すと猪瀬さんの目がまん丸になった。珍しい。
「そのジャム……」
「ああ、父さんの手作り。猪瀬さんブルーベリージャムが好きなんだって?」
「ああ……陸様はそう思ってらっしゃるんだ。貴嗣様はイチゴジャム、俺はブルーベリー……覚えて下さっていたのか……」
柔らかい笑み。
………………
瓶を開けてジャムを思いっきり乗っけてスコーンを食べてやる。
「おいおい……架向もブルーベリージャム好きだったのか。早い者勝ちだな」
……
別段、ブルーベリーが好きってわけじゃない。
なんか、なんか嫌だっただけだ。
全部俺が食べてやる。猪瀬さんが食べる分なんて残してやったりは……
「いてっ」
デコピンされた。
「コラ、夕飯食べれなくなっちゃうだろうが。と言っても、急だったからハウスキーパーが掴まんなくてな。外食になるが良いか?」
二人で食べに行くの、めずらしいかも!
「大丈夫。焼き肉食い放題行きたい!」
猪瀬さんの顔がウゲッとなる
「年寄りの猪瀬さんには脂はきついかなぁ?」
コツン。
「誰が年寄りだ」
あはは。そうだね、そこいらの芸能人より若くて魅力的だと思うよ。
店に入ると、食欲をそそる焼き肉の香りが店内に充満していた。
「どれだけ食べられるか見せてくれよ?態々、架向ご指定のこの店にしたんだからな。」
とても賑やかな店。父さん達と行く食べ放題に比べて俺位の歳かちょい上が多くて、皆無礼講感があって良いと思う。
席に着くと、店員さんがメニューを持ってきた。早速、カルビやロース、ハラミなどの定番の肉を注文した。
届いた肉を次々と焼いて行く。4対1の割合で猪瀬さんに渡していった。
暫くすると猪瀬さんが
「よし、覚えた」
「え?」
「焼くのは任せてくれ、架向のを見て学んだからな」
と自信満々に言い、炭火のグリルに肉を丁寧に並べ始めた。
笑ってしまう。肉を焼くのに学ぶも何もないじゃないか。
ああ…でも父さん達と三人で行った時も親父が似たような事をしていたな。
父さんの手をジッと見ているから、いつもの病気かと思っていたけれど調理方法を見て学習していたようだった。
『陸、架向、焼くのは私がやるから存分に食べなさい』
『よっしゃ!架向、元を取るぞ!』
父さんが満面の笑みで言って、ソレを見た親父がデレ~となっていた。
俺もお腹がはち切れそうになる位食べて、父さんが『もう無理!』って腹を擦って叫んでいたっけ。
…………変態親父はその直後に離席したけど、父さんは我関せずで、『甘い物は別腹だぞ!』ってデザート追加で頼んで、帰りの車で『苦しい』って言ってたな。
俺も満腹になって眠くなってウトウトしてる時に聞こえた会話
『ありがとうな、楽しかった……元は取れなかったけど』
『何言ってるの、7人前位は食べたでしょ』
『はは…そうだな。けど、エキストラ代を考えたら赤じゃん』
『チッ、演技の下手な奴らだ。次はないな』
あの時はなんの話をしているのか分かって無かったけど……。
「架向?どうした?箸が止まってる。時間が勿体ないぞ」
「上位αってのは肉も焼けないのかなって。親父も同じ事をしていたからさ」
「…………そうか」
「最近理解したんだけど、父さん達と食べ放題行く時って、実は親父は店を貸し切りにして、客はエキストラを雇っていたんだよ。どんだけ恨みを買ってんだか」
「…………陸様の無防備な姿を他の者に見せたく無かったんだ。けれど、陸様は家族連れで食べ放題に行ってみたかったんだろうな……幼き頃の陸様の小さな夢を叶える為の貴嗣様の妥協点だな。」
ずっと独身なのに、番の食べる姿すら見せたくないっていうαの執着は分かっているんだ。……いたんだろうか、猪瀬さんにもそんな風に思う相手が。
「おっと、いい感じに焼けたぞ」
猪瀬さんがカルビを僕の皿に乗せてくれた。
はっとする。慌てて一口食べると肉汁がジュワっと溢れ出して口の中に旨味が広がった気がした。
安い肉、けれど猪瀬さんが俺の為に焼いてくれた肉
「うん、最高だ!」
俺が叫ぶと、猪瀬さんは満足そうに笑った。
肉が焼けるのを待ちながら、学校での出来事を猪瀬さんに話す。時折、焼けた肉をひっくり返す音が心地よく、肉の焼ける香ばしい匂いが食欲を刺激した。
「…………成長期の食欲は凄まじいな。」
猪瀬さんが呆れたように言う。
当然!
その後も次々と肉を焼き続け、食べ続けた。大分にお腹がいっぱいになってきたが、猪瀬さんは
「まだまだ行けるだろ?」
と笑顔で僕を煽ってきた。その言葉に負けじと、俺はさらに肉を注文した
店を出る頃には、お腹いっぱいになり、大満足だった。
「今日は本当に楽しかった。ありがとう、猪瀬さん」
言うと、猪瀬さんは「また来ような」と笑顔で応えてくれた。
「ただ、次回はもう少し、良い肉を出す店にするぞ。あと、ちゃんと野菜も食えよ?陸様に顔向け出来ない」
「はぁい」
食べないけどね
「それは?」
父さんに持たされた紙袋を見て言った。
「ああ、スコーンとブルーベリージャムにその他色々なお菓子。出かけに父さんが猪瀬さんと食えって。」
袋から諸々を取り出すと猪瀬さんの目がまん丸になった。珍しい。
「そのジャム……」
「ああ、父さんの手作り。猪瀬さんブルーベリージャムが好きなんだって?」
「ああ……陸様はそう思ってらっしゃるんだ。貴嗣様はイチゴジャム、俺はブルーベリー……覚えて下さっていたのか……」
柔らかい笑み。
………………
瓶を開けてジャムを思いっきり乗っけてスコーンを食べてやる。
「おいおい……架向もブルーベリージャム好きだったのか。早い者勝ちだな」
……
別段、ブルーベリーが好きってわけじゃない。
なんか、なんか嫌だっただけだ。
全部俺が食べてやる。猪瀬さんが食べる分なんて残してやったりは……
「いてっ」
デコピンされた。
「コラ、夕飯食べれなくなっちゃうだろうが。と言っても、急だったからハウスキーパーが掴まんなくてな。外食になるが良いか?」
二人で食べに行くの、めずらしいかも!
「大丈夫。焼き肉食い放題行きたい!」
猪瀬さんの顔がウゲッとなる
「年寄りの猪瀬さんには脂はきついかなぁ?」
コツン。
「誰が年寄りだ」
あはは。そうだね、そこいらの芸能人より若くて魅力的だと思うよ。
店に入ると、食欲をそそる焼き肉の香りが店内に充満していた。
「どれだけ食べられるか見せてくれよ?態々、架向ご指定のこの店にしたんだからな。」
とても賑やかな店。父さん達と行く食べ放題に比べて俺位の歳かちょい上が多くて、皆無礼講感があって良いと思う。
席に着くと、店員さんがメニューを持ってきた。早速、カルビやロース、ハラミなどの定番の肉を注文した。
届いた肉を次々と焼いて行く。4対1の割合で猪瀬さんに渡していった。
暫くすると猪瀬さんが
「よし、覚えた」
「え?」
「焼くのは任せてくれ、架向のを見て学んだからな」
と自信満々に言い、炭火のグリルに肉を丁寧に並べ始めた。
笑ってしまう。肉を焼くのに学ぶも何もないじゃないか。
ああ…でも父さん達と三人で行った時も親父が似たような事をしていたな。
父さんの手をジッと見ているから、いつもの病気かと思っていたけれど調理方法を見て学習していたようだった。
『陸、架向、焼くのは私がやるから存分に食べなさい』
『よっしゃ!架向、元を取るぞ!』
父さんが満面の笑みで言って、ソレを見た親父がデレ~となっていた。
俺もお腹がはち切れそうになる位食べて、父さんが『もう無理!』って腹を擦って叫んでいたっけ。
…………変態親父はその直後に離席したけど、父さんは我関せずで、『甘い物は別腹だぞ!』ってデザート追加で頼んで、帰りの車で『苦しい』って言ってたな。
俺も満腹になって眠くなってウトウトしてる時に聞こえた会話
『ありがとうな、楽しかった……元は取れなかったけど』
『何言ってるの、7人前位は食べたでしょ』
『はは…そうだな。けど、エキストラ代を考えたら赤じゃん』
『チッ、演技の下手な奴らだ。次はないな』
あの時はなんの話をしているのか分かって無かったけど……。
「架向?どうした?箸が止まってる。時間が勿体ないぞ」
「上位αってのは肉も焼けないのかなって。親父も同じ事をしていたからさ」
「…………そうか」
「最近理解したんだけど、父さん達と食べ放題行く時って、実は親父は店を貸し切りにして、客はエキストラを雇っていたんだよ。どんだけ恨みを買ってんだか」
「…………陸様の無防備な姿を他の者に見せたく無かったんだ。けれど、陸様は家族連れで食べ放題に行ってみたかったんだろうな……幼き頃の陸様の小さな夢を叶える為の貴嗣様の妥協点だな。」
ずっと独身なのに、番の食べる姿すら見せたくないっていうαの執着は分かっているんだ。……いたんだろうか、猪瀬さんにもそんな風に思う相手が。
「おっと、いい感じに焼けたぞ」
猪瀬さんがカルビを僕の皿に乗せてくれた。
はっとする。慌てて一口食べると肉汁がジュワっと溢れ出して口の中に旨味が広がった気がした。
安い肉、けれど猪瀬さんが俺の為に焼いてくれた肉
「うん、最高だ!」
俺が叫ぶと、猪瀬さんは満足そうに笑った。
肉が焼けるのを待ちながら、学校での出来事を猪瀬さんに話す。時折、焼けた肉をひっくり返す音が心地よく、肉の焼ける香ばしい匂いが食欲を刺激した。
「…………成長期の食欲は凄まじいな。」
猪瀬さんが呆れたように言う。
当然!
その後も次々と肉を焼き続け、食べ続けた。大分にお腹がいっぱいになってきたが、猪瀬さんは
「まだまだ行けるだろ?」
と笑顔で僕を煽ってきた。その言葉に負けじと、俺はさらに肉を注文した
店を出る頃には、お腹いっぱいになり、大満足だった。
「今日は本当に楽しかった。ありがとう、猪瀬さん」
言うと、猪瀬さんは「また来ような」と笑顔で応えてくれた。
「ただ、次回はもう少し、良い肉を出す店にするぞ。あと、ちゃんと野菜も食えよ?陸様に顔向け出来ない」
「はぁい」
食べないけどね
601
お気に入りに追加
1,572
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる