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架向-2
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「ただいま~」
「お~、おかえりなさい」
家に帰ると父さんがいた。
この時間に父さんが帰ってきているのは珍しい。
「どう……ああ」
どうしたのかと聞こうとして、甘い香りであぁと気がついた。発情期が近いのだ。
「おかえり」
親父が冷ややかな声で言う。
番のフェロモンに気がついた俺に対する苛立ちだろう。
番を得たΩはフェロモンを発し無いと言われているが、実際には極々微量に纏っている。ただ、それは番以外のαを誘惑するものではなく、薄い薄い香水みたいなもので、俺のような鼻が利くαがあれ?と思う程度だ。
「おい」
父さんが親父を咎めるが、聞こえてないふりをした。子供か。
「その、多分……」
「陸がヒートになる。お前は猪瀬の家に行け」
父さんの言葉を遮って親父が言う。父さんに言わせたくなかったのだろう。いくつになっても嫉妬深いな
「はいはい」
「ごめん、架向……」
「気にすんなって」
2階の廊下の端にある両親の寝室はヒートの時に籠もれるように防音防臭なっている。それでも、小さい頃はお手伝いさんと一階の客間で過ごしていた。そしてある程度になってからは猪瀬さんの家で過ごすようになった。親子でも、番がヒートの時に他のαがいる事を親父は許さなかったからだ。そして父さんは何も言わなかった。元々αだった父さんは、β家系の男である父さんは、子供にヒートを知られると言う事がきつかったのだろう。
ヒート明け、父さんは俺に寂しい思いをさせたと言って、三人で川の字になってねむったものだ。
…………流石にそれはもうしてないけれど。
自室で1週間分の荷物をまとめる。といっても教科書といったものだけだ。俺の着替えなどは猪瀬さんの家に常備してある。
荷物を持ってリビングを通ると、父に止められた
「架向、これ、猪瀬と食べて」
スコーンとブルーベリージャムを渡された。
ブルーベリージャム?
「ああ、猪瀬が昔ブルーベリージャムが好きって言ってたから作ったんだよ。今日は会社に行くなってアレに言われてたし、暇だったからさ」
…………それ、手作りってヤツじゃん。しかも猪瀬さんの好きなやつを作ったって親父にバレたらヤバいやつ。
「ああ、アレにはイチゴジャムを作っておいたから大丈夫だよ」
う~ん。まぁ、俺にもって言ってるから問題ないか。
猪瀬さんの家に向かう
って言っても隣なんだけど。
合鍵も渡されているからもう我が家みたいなもん。インターホンも押さずに入っていった。
…………
猪瀬さんとはサイズが異なる靴が土間にある。
…………俺の家に知らない靴があるなんて
なんかむかつく。
「ただいま~」
リビングのドアを開けるが無人だ。客間にもいない
…………
男、だよな?
…………
「猪瀬さんどこ~?」
大声で叫びながら階段を上っていると寝室から乱れた服の猪瀬さんが出てきた。
「早かったな」
くしゃり。俺に手を伸ばして髪の毛を触る。
「リビングで待っててくれ」
「…………」
伸ばされたその腕からは、Ωの香りがする。どこかで嗅いだような…………
リビングに行ってしまえばそのΩが見れない。寝室のドアを見つめてしまう
「架向」
「……わかったよ」
猪瀬さんは俺に相手を見られるのを嫌がる。そして俺はそれを押してまで見ようとは思わない。猪瀬さんに嫌われたくない。
ヒートで追い出されるたびにお世話になっていて、最早叔父さんというか兄貴というか、親父よりも俺にとっては肉親みたいなもんだ。
リビングにいると、玄関でΩと猪瀬さんが言い争ってるのが聞こえる
「ちょっと、今日は俺と過ごすって話だったじゃないかよ」
「急用が入ったって言って断ったのに押しかけてきたのはお前だろ」
「そっちだって、のってきたんだから了承したようなもんじゃん」
「いいから取り敢えず帰れ。」
低い声。猪瀬さんが本気で怒っている声だ。
「…………わかったよ」
ドアの閉まる音。
いい気味だ。
お前なんかより俺の方が優先順位が高いんだよ
鼻歌まじりで父さんに持たされた紅茶を淹れる。
「ご機嫌だな。昔は泣きながら家に帰りたいって言ってたくせに」
「そんな前の話すんなよ!」
振り返ると、色気たっぷりの猪瀬さんがいた。Ω臭が酷い。さっきあった時よりもべったりついてる。
俺に対する牽制?残念でした~俺はαだし、何よりお前なんかよりも優先もされてんだよ。
とはいえ……
「臭いからシャワー浴びてきたら?」
不愉快だ。
猪瀬さんが鼻をスンっとした。
「ん、でも、せっかく架向が淹れてくれたんだ。冷める前に飲みたい」
髪をくしゃりとされる。
ふわり。
吐き気がしそうだ
「いれなおすから、シャワー浴びてこいよ!」
「分かったから、一口な。陸様が下さった茶葉だろう?」
…………香りでわかるんだ。
「………そうだけど。わかったよ!せめて拭けよ!」
ボディシートを渡してやる。
「ありがとうな」
「………………」
そっぽを向いてやった。
猪瀬さんの優先順位は明確だ。親父、父さん、俺、猪瀬さんの家族……。俺が父さん達に勝つことはない。
「お~、おかえりなさい」
家に帰ると父さんがいた。
この時間に父さんが帰ってきているのは珍しい。
「どう……ああ」
どうしたのかと聞こうとして、甘い香りであぁと気がついた。発情期が近いのだ。
「おかえり」
親父が冷ややかな声で言う。
番のフェロモンに気がついた俺に対する苛立ちだろう。
番を得たΩはフェロモンを発し無いと言われているが、実際には極々微量に纏っている。ただ、それは番以外のαを誘惑するものではなく、薄い薄い香水みたいなもので、俺のような鼻が利くαがあれ?と思う程度だ。
「おい」
父さんが親父を咎めるが、聞こえてないふりをした。子供か。
「その、多分……」
「陸がヒートになる。お前は猪瀬の家に行け」
父さんの言葉を遮って親父が言う。父さんに言わせたくなかったのだろう。いくつになっても嫉妬深いな
「はいはい」
「ごめん、架向……」
「気にすんなって」
2階の廊下の端にある両親の寝室はヒートの時に籠もれるように防音防臭なっている。それでも、小さい頃はお手伝いさんと一階の客間で過ごしていた。そしてある程度になってからは猪瀬さんの家で過ごすようになった。親子でも、番がヒートの時に他のαがいる事を親父は許さなかったからだ。そして父さんは何も言わなかった。元々αだった父さんは、β家系の男である父さんは、子供にヒートを知られると言う事がきつかったのだろう。
ヒート明け、父さんは俺に寂しい思いをさせたと言って、三人で川の字になってねむったものだ。
…………流石にそれはもうしてないけれど。
自室で1週間分の荷物をまとめる。といっても教科書といったものだけだ。俺の着替えなどは猪瀬さんの家に常備してある。
荷物を持ってリビングを通ると、父に止められた
「架向、これ、猪瀬と食べて」
スコーンとブルーベリージャムを渡された。
ブルーベリージャム?
「ああ、猪瀬が昔ブルーベリージャムが好きって言ってたから作ったんだよ。今日は会社に行くなってアレに言われてたし、暇だったからさ」
…………それ、手作りってヤツじゃん。しかも猪瀬さんの好きなやつを作ったって親父にバレたらヤバいやつ。
「ああ、アレにはイチゴジャムを作っておいたから大丈夫だよ」
う~ん。まぁ、俺にもって言ってるから問題ないか。
猪瀬さんの家に向かう
って言っても隣なんだけど。
合鍵も渡されているからもう我が家みたいなもん。インターホンも押さずに入っていった。
…………
猪瀬さんとはサイズが異なる靴が土間にある。
…………俺の家に知らない靴があるなんて
なんかむかつく。
「ただいま~」
リビングのドアを開けるが無人だ。客間にもいない
…………
男、だよな?
…………
「猪瀬さんどこ~?」
大声で叫びながら階段を上っていると寝室から乱れた服の猪瀬さんが出てきた。
「早かったな」
くしゃり。俺に手を伸ばして髪の毛を触る。
「リビングで待っててくれ」
「…………」
伸ばされたその腕からは、Ωの香りがする。どこかで嗅いだような…………
リビングに行ってしまえばそのΩが見れない。寝室のドアを見つめてしまう
「架向」
「……わかったよ」
猪瀬さんは俺に相手を見られるのを嫌がる。そして俺はそれを押してまで見ようとは思わない。猪瀬さんに嫌われたくない。
ヒートで追い出されるたびにお世話になっていて、最早叔父さんというか兄貴というか、親父よりも俺にとっては肉親みたいなもんだ。
リビングにいると、玄関でΩと猪瀬さんが言い争ってるのが聞こえる
「ちょっと、今日は俺と過ごすって話だったじゃないかよ」
「急用が入ったって言って断ったのに押しかけてきたのはお前だろ」
「そっちだって、のってきたんだから了承したようなもんじゃん」
「いいから取り敢えず帰れ。」
低い声。猪瀬さんが本気で怒っている声だ。
「…………わかったよ」
ドアの閉まる音。
いい気味だ。
お前なんかより俺の方が優先順位が高いんだよ
鼻歌まじりで父さんに持たされた紅茶を淹れる。
「ご機嫌だな。昔は泣きながら家に帰りたいって言ってたくせに」
「そんな前の話すんなよ!」
振り返ると、色気たっぷりの猪瀬さんがいた。Ω臭が酷い。さっきあった時よりもべったりついてる。
俺に対する牽制?残念でした~俺はαだし、何よりお前なんかよりも優先もされてんだよ。
とはいえ……
「臭いからシャワー浴びてきたら?」
不愉快だ。
猪瀬さんが鼻をスンっとした。
「ん、でも、せっかく架向が淹れてくれたんだ。冷める前に飲みたい」
髪をくしゃりとされる。
ふわり。
吐き気がしそうだ
「いれなおすから、シャワー浴びてこいよ!」
「分かったから、一口な。陸様が下さった茶葉だろう?」
…………香りでわかるんだ。
「………そうだけど。わかったよ!せめて拭けよ!」
ボディシートを渡してやる。
「ありがとうな」
「………………」
そっぽを向いてやった。
猪瀬さんの優先順位は明確だ。親父、父さん、俺、猪瀬さんの家族……。俺が父さん達に勝つことはない。
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