184 / 245
182
しおりを挟む
仔虎は可愛かった。
抱き上げるとずっしりと重たくて、小さくても虎なんだなと思った。
そして、京極が諸用ができたと言って席を外す。
デジャヴ……。
京極は俺といると急に席を立つことがある。
消えたアイツがナニをしているかなんて明白だ。
アイツのスイッチがなんなのかは全く分からないけれど(理解したくもない)、こうも簡単におっ勃てる輩が俺のヒートの時だけ座薬、いや、軟膏のように自分の精液を渡すだけで済ませているのだから、その精神力には脱帽だ。
戻ってきた京極はこれまた、壮絶に淫靡で、思わず目を逸らした。
飼育員の仕事にならないので、さっさと退散する事にした。最早わいせつ物だ。
「………………」
気まずい。
なんで、俺らはボートなんかに乗っているのか、乗ってしまったのか。
「陸を逃さない為だよ」
…………コイツは俺の心が読めるのだろうか。そして何より、逃げ出したくなるような事をするという事だろうか
「心は読めないよ。陸が挙動不審だから、そんなところかな、と思っただけだよ。陸の心を読めてΩ化について話していたらこんなに人を傷つける事も無かったかもね。」
…………。
それはずっと考えている……。
元々Ω値が高かった俺。そして京極は願っただけ。どっちが原因かなんて分からない。
それなのに俺のせいで……
「陸、陸の中でもう、踏ん切りはついたでしょう?あの場にいたΩには道を用意した。だから……私の事を考えてくれないか」
真っすぐに俺を見つめてくる。
言われることはわかっていた。でも覚悟ができていない
「俺は……」
「私は陸しかいらない」
知っている、京極がどれだけ俺を欲しているかなんてとうに知っている。誰よりも俺を必要としてくれていることもしっている
けれど俺は…
「同じだけの想いを返して欲しいなんて言わない。陸は私の事を尊敬してくれている。それだけでもいい。好きの種類が私と違っても良いから、私と…番って欲しい。」
尊敬はしている。
会社に入って勤めることの大変さを身を持って知った。下っ端でも大変なのだ。学生と役職もちの社会人の二足の草鞋を履いていたコイツを尊敬しないわけがない。
けれどそれは……
「陸、陸はお義父さんの会社を継ぎたいんだね?私がいなくなった後、どうやってヒートを乗り切るの、40過ぎるよ?」
ギクリとした。
痩せた京極。コイツが俺のヒートの相手を誰かに譲る訳が無い。
つまり、自分はあと10年ちょっとで副作用で死ぬ。そのとき、40過ぎのΩを相手にするαがいると思う?そう言っている。
国公認のヒートマッチングシステムは運用開始してまだ歴史が浅い。αの反対を押し切り出来たこの制度には問題も山積みで、その中の一つが年配のΩがマッチングできないということだ。当然だ。国が認めたαしか登録は出来ないが、そのαだって完全にボランティアという訳では無い。己の性欲処理が目的だ。惚れた相手でも無い限り年配のΩと若いΩ、どちらを選ぶと言われたら若いΩになる。
ヒートに苦しむΩをその時だけ救済するこのマッチングシステムが、この先このままと言うことは無いだろう。Ωが少しずつ社会進出していくのだから、少しずつ改良されていくだろうし、抑制剤も日々進化している。
確定もしていない未来、今より幾分ましになるシステムに悲観する必要はない。
ただ…、確定している未来はある。
京極の死…。このまま薬を飲み続ければ京極は死ぬ。
これはブラフではない。京極は本気だ。自分の命を盾に迫ってきている。
抱き上げるとずっしりと重たくて、小さくても虎なんだなと思った。
そして、京極が諸用ができたと言って席を外す。
デジャヴ……。
京極は俺といると急に席を立つことがある。
消えたアイツがナニをしているかなんて明白だ。
アイツのスイッチがなんなのかは全く分からないけれど(理解したくもない)、こうも簡単におっ勃てる輩が俺のヒートの時だけ座薬、いや、軟膏のように自分の精液を渡すだけで済ませているのだから、その精神力には脱帽だ。
戻ってきた京極はこれまた、壮絶に淫靡で、思わず目を逸らした。
飼育員の仕事にならないので、さっさと退散する事にした。最早わいせつ物だ。
「………………」
気まずい。
なんで、俺らはボートなんかに乗っているのか、乗ってしまったのか。
「陸を逃さない為だよ」
…………コイツは俺の心が読めるのだろうか。そして何より、逃げ出したくなるような事をするという事だろうか
「心は読めないよ。陸が挙動不審だから、そんなところかな、と思っただけだよ。陸の心を読めてΩ化について話していたらこんなに人を傷つける事も無かったかもね。」
…………。
それはずっと考えている……。
元々Ω値が高かった俺。そして京極は願っただけ。どっちが原因かなんて分からない。
それなのに俺のせいで……
「陸、陸の中でもう、踏ん切りはついたでしょう?あの場にいたΩには道を用意した。だから……私の事を考えてくれないか」
真っすぐに俺を見つめてくる。
言われることはわかっていた。でも覚悟ができていない
「俺は……」
「私は陸しかいらない」
知っている、京極がどれだけ俺を欲しているかなんてとうに知っている。誰よりも俺を必要としてくれていることもしっている
けれど俺は…
「同じだけの想いを返して欲しいなんて言わない。陸は私の事を尊敬してくれている。それだけでもいい。好きの種類が私と違っても良いから、私と…番って欲しい。」
尊敬はしている。
会社に入って勤めることの大変さを身を持って知った。下っ端でも大変なのだ。学生と役職もちの社会人の二足の草鞋を履いていたコイツを尊敬しないわけがない。
けれどそれは……
「陸、陸はお義父さんの会社を継ぎたいんだね?私がいなくなった後、どうやってヒートを乗り切るの、40過ぎるよ?」
ギクリとした。
痩せた京極。コイツが俺のヒートの相手を誰かに譲る訳が無い。
つまり、自分はあと10年ちょっとで副作用で死ぬ。そのとき、40過ぎのΩを相手にするαがいると思う?そう言っている。
国公認のヒートマッチングシステムは運用開始してまだ歴史が浅い。αの反対を押し切り出来たこの制度には問題も山積みで、その中の一つが年配のΩがマッチングできないということだ。当然だ。国が認めたαしか登録は出来ないが、そのαだって完全にボランティアという訳では無い。己の性欲処理が目的だ。惚れた相手でも無い限り年配のΩと若いΩ、どちらを選ぶと言われたら若いΩになる。
ヒートに苦しむΩをその時だけ救済するこのマッチングシステムが、この先このままと言うことは無いだろう。Ωが少しずつ社会進出していくのだから、少しずつ改良されていくだろうし、抑制剤も日々進化している。
確定もしていない未来、今より幾分ましになるシステムに悲観する必要はない。
ただ…、確定している未来はある。
京極の死…。このまま薬を飲み続ければ京極は死ぬ。
これはブラフではない。京極は本気だ。自分の命を盾に迫ってきている。
618
お気に入りに追加
1,573
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

妻の死で思い知らされました。
あとさん♪
恋愛
外交先で妻の突然の訃報を聞いたジュリアン・カレイジャス公爵。
急ぎ帰国した彼が目にしたのは、淡々と葬儀の支度をし弔問客たちの対応をする子どもらの姿だった。
「おまえたちは母親の死を悲しいとは思わないのか⁈」
ジュリアンは知らなかった。
愛妻クリスティアナと子どもたちがどのように生活していたのか。
多忙のジュリアンは気がついていなかったし、見ようともしなかったのだ……。
そしてクリスティアナの本心は——。
※全十二話。
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください
※時代考証とか野暮は言わないお約束
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第三弾。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる