【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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仔虎は可愛かった。
抱き上げるとずっしりと重たくて、小さくても虎なんだなと思った。
そして、京極が諸用ができたと言って席を外す。
デジャヴ……。

京極は俺といると急に席を立つことがある。
消えたアイツがナニをしているかなんて明白だ。
アイツのスイッチがなんなのかは全く分からないけれど(理解したくもない)、こうも簡単におっ勃てる輩が俺のヒートの時だけ座薬、いや、軟膏のように自分の精液を渡すだけで済ませているのだから、その精神力には脱帽だ。

戻ってきた京極はこれまた、壮絶に淫靡で、思わず目を逸らした。
飼育員の仕事にならないので、さっさと退散する事にした。最早わいせつ物だ。


「………………」
気まずい。
なんで、俺らはボートなんかに乗っているのか、乗ってしまったのか。
「陸を逃さない為だよ」
…………コイツは俺の心が読めるのだろうか。そして何より、逃げ出したくなるような事をするという事だろうか
「心は読めないよ。陸が挙動不審だから、そんなところかな、と思っただけだよ。陸の心を読めてΩ化について話していたらこんなに人を傷つける事も無かったかもね。」

…………。
それはずっと考えている……。
元々Ω値が高かった俺。そして京極は願っただけ。どっちが原因かなんて分からない。
それなのに俺のせいで……


「陸、陸の中でもう、踏ん切りはついたでしょう?あの場にいたΩには道を用意した。だから……私の事を考えてくれないか」

真っすぐに俺を見つめてくる。
言われることはわかっていた。でも覚悟ができていない
「俺は……」
「私は陸しかいらない」
知っている、京極がどれだけ俺を欲しているかなんてとうに知っている。誰よりも俺を必要としてくれていることもしっている

けれど俺は…
「同じだけの想いを返して欲しいなんて言わない。陸は私の事を尊敬してくれている。それだけでもいい。好きの種類が私と違っても良いから、私と…番って欲しい。」

尊敬はしている。
会社に入って勤めることの大変さを身を持って知った。下っ端でも大変なのだ。学生と役職もちの社会人の二足の草鞋を履いていたコイツを尊敬しないわけがない。

けれどそれは……

「陸、陸はお義父さんの会社を継ぎたいんだね?私がいなくなった後、どうやってヒートを乗り切るの、40過ぎるよ?」

ギクリとした。
痩せた京極。コイツが俺のヒートの相手を誰かに譲る訳が無い。
つまり、自分はあと10年ちょっとで副作用で死ぬ。そのとき、40過ぎのΩを相手にするαがいると思う?そう言っている。
国公認のヒートマッチングシステムは運用開始してまだ歴史が浅い。αの反対を押し切り出来たこの制度には問題も山積みで、その中の一つが年配のΩがマッチングできないということだ。当然だ。国が認めたαしか登録は出来ないが、そのαだって完全にボランティアという訳では無い。己の性欲処理が目的だ。惚れた相手でも無い限り年配のΩと若いΩ、どちらを選ぶと言われたら若いΩになる。
ヒートに苦しむΩをその時だけ救済するこのマッチングシステムが、この先このままと言うことは無いだろう。Ωが少しずつ社会進出していくのだから、少しずつ改良されていくだろうし、抑制剤も日々進化している。
確定もしていない未来、今より幾分ましになるシステムに悲観する必要はない。
ただ…、確定している未来はある。
京極の死…。このまま薬を飲み続ければ京極は死ぬ。

これはブラフではない。京極は本気だ。自分の命を盾に迫ってきている。
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