【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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「青島、行くぞ」
「ハイっ」
課長に声をかけられて慌ててパソコンの電源を落とす。
エレベーターを待ちながら、課長が言う
「けど……ほんとにお前も同席するのか」
「迷惑かけたのは事実ですし、担当は俺ですから。」
発注した資材が、色々あって納期遅れになってしまったのだ。先方には電話で謝罪をしたが、直接謝罪に来いと言われたのだ。
「う~ん。今までもこういった事はあったんだが、その時は電話で大丈夫だったんだかなあ」
実際、ここまでの大型台風なんて予測できないし、輸入品には保険がかけられてはいるから、ある程度の損害は補償される
けれど、そういう問題でもあるまい。

納品先の会社に向かうと、重厚な応接室に通された。
…………
これは、まぁ……。
想像と違えばいいんだが。

暫くもすると、困り顔の担当者とその上司と思われる男が入ってきた。ニタニタした笑いに、予想が的中した事を悟る。
……面倒くせえ。
「今回は困った事になりましたね」
ニタニタ野郎が言う。
「「申し訳ありません」」
「これってお金の問題じゃないんだよ、御社との青島君との信用の問題だよね?」
「…はい」
「誠意を見せて欲しいんだよね……」
「誠意とおっしゃいますと?」
素知らぬ顔で聞いてみる。だったら下卑た台詞を言う勇気?ぐらい見せやがれ。
「サッシが悪いね。だからΩなのに行き遅れてるんじゃない?ヒートも大変だろう?明日は休みだろう?」
Ωの大半は25までに結婚する。俺のように28にもなって独りのΩは珍しい。
課長が言い返そうとするのを止めていう。
「納期の件ではご迷惑をおかけしております。弊社としてはできる限り対応させていただきたいと思っておりますので、ご要望を具体的に仰っていただけましたら、そのように対応させていただきます」
課長が慌てる。
大丈夫。担当者とは、誠意、以外の問題は合意済みで、横やりを入れてきたのはこの上司とやらだ。
こんな小物には『体で払え』なんて言う胆力はない。常に逃げ道を用意している筈だ。青島君から誘ってきたんだ…とか何とか。
案の定、舌打ちして終わる。

就職して、Ω差別を目の当たりにした。αはビジネスライクに接してくるからいいが、問題はβだ。俺の首輪を見て、行き遅れた可哀想なΩを救ってやろうじゃないか、ヒートの相手をつとめてやるよ、そんな謎な上から目線な事を言い出してくるのだ。
Ωがまともな仕事なんて出来る訳ないから、枕しているのだろう?
…………まったく。

「ただいま」
ノブユキに挨拶すると、くぅんと鳴いてきた。
コンちゃんのチェックを終えて戻ってきたノブユキは、当然ながら、入院中程は聡く無かった。…………あいつも辛かったろうな、俺の泣き言を聞き続けて……。
本当は俺をとめたい、けれど俺が望むから動かず耐え続けた。その経験が今の京極をつくったのだから、良かったと思う事にする。
そうでなければ……今日のニタニタジジイを始め、少なくない数の人が処刑されていただろう。
俺が懐いていた、それだけで人を殺しかけるあいつが、俺にセクハラをしてくるヤツを無罪放免できるようになったのだから。

最も、今日のジジイが無事かは不明だ。
明日は……アイツにとって特別な日だ。一点の曇りも無い状態で迎えたいと思っている京極にとって、俺を僅かでも不快にさせた輩を放置出来るのだろうか……。

スマホが鳴った、京極だ
『陸、今日はお疲れ様』
……
今日。ジジイ死んだな…

京極は、俺が自宅について一息ついたタイミングで電話をかけてくる。あんまりにも見越しているから、コンちゃんに、『ノブユキに盗聴器とか盗撮器とかついてないよね!?』と確認したほどだ。ヤツはもう、俺にそんな事はしない、そう思ってはいても狙ったようなタイミングが続けば確認したくもなる
『陸は不用心だからなあ。盗聴器も盗撮カメラもついてないよ。ただ、陸は部屋を移動するとき部屋の明かりをいちいち消すでしょ。カーテンの隙間からその変化追えるし、窓の振動で音も拾える、他にも色々方法はあるのよ?』
『……』
なんだっけ?
警察が容疑者にGPS仕込んだらアウトになった事例があったよな、尾行はOKで、GPSはアウト……。
盗聴器はアウトで、……外から音を拾うのはOK?…な訳あるか!
けれど、証拠はない。
以降、照明はつけっぱなし、ベランダや窓の側にはよらないようにしているのに……

『陸、早めにお風呂に入って寝るんだよ。明日は、早いから』

……まだシャワーを浴びてないこともバレている。
これ以上、どう対策すれば?

『無理だよ、諦めて?』

何も言ってないのに、俺が何を考えているか伝わったようだ

『明日はよろしくね?お休み』

…………
明日、か。






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