【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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猪瀬に威圧を放った京極がずるりと座り込んだ。猪瀬が自分のために死んで行こうとしていたのに気がついたのだろう。
こいつにとって猪瀬はそれなりに価値がある男だったんだな。
猪瀬の献身は報われているんだな……。

「違うよ、陸。私は君しかいらない。けれど猪瀬を追い込めば陸は更に私から去るだろう?だから、猪瀬に何もしない。」
…………腹心の部下だろう。十数年を共に過ごしてきた家族にも等しい相手だろう?
「陸しかいらないと言っているだろう?」
「…………」
誰かの一番になりたかった。してほしかった。
けれど……それは、俺を認めた上でだ。京極のは違う……

猪瀬と出でいく俺の背中に京極が言う。
「陸、陸は後天性オメガなんだ、本当だ」
まだ言うのか、そのたわごとを。
「今の俺は第なん形態だ?言ってたよな、旅行中に」
オメガになって色々調べた。後天性オメガについてもネットで調べた。進行度合いに応じて第何形態と呼ぶらしい。だが、その確認は容易ではない、他者ならなおさらだ。それが把握できるとすれば意図的オメガに変えたもののみだ。
京極がはっと息を呑む。
お前の言い訳など、お前のゴマカシなど許しはしない。
それでも奴はすがりつくように俺に腕を伸ばしながら言った。
「陸、君にはΩ因子があった。いくら私でもオメガ因子が皆無なものをオメガに作り変えることはできない。」
……

あれは大学入学前のことだ。
『陸って一応オメガ因子持っていたんだね。だからαとしての属性が低いのかな?』
コンちゃんが言っていた言葉。
『それって俺が?後天性Ωになるってこと?』
『いや。そういう意味じゃないよ。時々持っている人もいる。その内のごくごくごく少数が後天性オメガとして花ひらくらしいけど。天文学的確率だよ。それよりかは京極にビッチングされる可能性の方が高いよ』
『いや、誰だよ、その京極って。』
そんなやり取りをした。
京極と出会わなくても俺がΩになった可能性はある。あるけれど…

「だとしても俺がα性を維持できた確率のほうが高い。お前が余計なことをしたから変わったのだろう。」
「しなくてもなっていたかもしれない。私は、私が知らないところで陸がΩになって突然ヒートになって、誰かに襲われることが嫌だったんだ。」
「俺がΩになる確率なんてほぼなかった。むしろ俺はαとして過ごして、コンちゃんと早々に結婚して番って、それで安定したかもしれない。番契約を結んだ後にバースが変わった例はさらに少ないんだ。…あんたにとってαである俺はいらなかったんだろう?」

「ち、ちが…。ただ、絶対に君から離れないでいられる。立場が欲しかっただけだ。君の一番でいたかっただけ。君を抱きしめる権利が欲しかっただけだ。」
…結局、肉欲か。

「陸、君が好きだ…。君以外いらない。君だけがほしい。私のすべてを渡すから…私に陸をくれ。一部でもいい」
一部でいいのなら、αだった俺でも良かったはずだろう。
「陸が私のすべてだ。お願いだ…」

床に泣き崩れる京極を置いてきぼりにして俺は猪瀬を抱えて会社を出た。
奴には俺のフェロモンがまだ聞いているらしく歩くぞと言えば、そのまま素直について来た。
マンションに戻り猪瀬をベッドに寝かせた。
「貴嗣様。」
猪瀬が寝言で京極の名を呟く。それとともに。猪瀬の生命活動が弱まるのを感じた。

この男はどれほど京極に心酔しているのか?教祖が自身の死を願っていると思うだけで体の生命活動が弱まっていくなんて。
…俺は…
レイプは殺人と同じだそういうふうに奴らに言っておきながら、俺もまた…同じ穴のムジナか

守るから、ここが貴方の居場所だがら。
そう言い聞かせても猪瀬は隙あらば去とうとする。手を握り何とか留めるが本人の希望ではない。
……少しだけ京極が羨ましい。
猪瀬の、誰かのぶっちぎりの一番にされる京極が。見返りを与えなくても一番でいられる京極が
俺が猪瀬の一番になる事はない。どうしたって何をしたって無駄なのだ。俺が誰かの一番になる事なんて……
『陸陸陸……!』
強い強い想い。
………
頭を振る
明後日には俺はヒートになるだろう。その時猪瀬を頼ることだけはやめよう。
自殺ほう助なんかしたくない。



幸い抑制剤は本物だった。波はあるが効くときはそれなりに効いてくれている。

慣れてくると抑制剤が効いている時間がだいたい見えてきた。
抑制剤の効果があるうちに、ご飯を食べてシャワーを浴びる。猿轡をハメて手足を縛る。
正直、猿轡はかなり息苦しい。けれど俺は無意識に誰かを読んでいたようだったから仕方あるまい。
後ろが疼く。アレが欲しい。アレで串刺してほしい!
あいつの…!
『陸…』

地獄のような本当に地獄のようなヒートを体験した。
ヒート開け、俺も猪瀬も数キロ体重が落ちていた。

猪瀬のクマはあまりにもひどくて…
「お前、ほんとに上位αか」
上位オーラゼロ、ぼろきれか?けらけら笑ってしまった。
猪瀬が、一瞬ほっとした表情を見せた後、憮然としながら言う。
「余計なお世話だ。」
苦虫…。イケメンの変顔に久々に腹から笑った。

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