【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

文字の大きさ
上 下
165 / 243

163

しおりを挟む
店を出た。
ショップ袋を感慨深く見つめる。
ずっとこれが欲しかった。こんな形で買うとは思ってもいなかったけれど。
けれど、これが一つの区切りになるのだろう。

「コンちゃん、会いたい。会って話がしたい」
『分かった』
電話するとこんは快諾してくれた。
京極にコンちゃんの正体がバレてからは普通に連絡を取り合うようになった。
『立花すみれは俺の運命だ。』
千葉さんが、そう公言した。
それだけでコンちゃんは守られた。
たったそれだけで。
コンちゃんは了承したわけでもない。それでも、かなりの上位αが運命とまで言ったのだ。
運命への手出しはご法度だ。京極が千葉さんより上だとしても、滅多な事では攻撃出来ない。それがαの暗黙の掟だ。
京極に、『俺の運命に手を出すなら全面戦争になるぞ』と脅したようなものだ。
上位だからこその術。
俺とコンちゃんのそれまでの対策を鼻で笑うかのように、千葉さんは力でねじ伏せた。

待ち合わせ場所は緑が豊かな公園にした。俺は多分泣いてしまう。だからカフェとか無理だった。

しばらくもするとコンちゃんが千葉さんとともにやってきた。千葉さんはまるでコンちゃんを守る騎士のようだった。
…お似合いだった。
俺とコンちゃんで歩いていた時に仲の良いごきょうだいですねと言われたことがある。でも千葉さんと歩いているコンちゃんを見て姉弟と評する人はいないだろう。

「陸。」
こんちゃんが俺の胸に飛び込んできた。ぐすぐすと鳴いている。俺はコンちゃんの髪を撫でた。
千葉さんを見れば苦笑しているだけだった。
完敗だな。

あの後、あのマンションでの狂宴の後、千葉さんはコンちゃんを匿ってくれた。いや、守ってくれたコンちゃん生活を。コンちゃんの今までの生活を変えずに守ってくれていたのだ。研究熱心なコンちゃんが研究所に通えるように手配をしてくれていた。

「陸!陸陸陸!こんなに痩せちゃって。ご飯はちゃんと食べてる?」
「食べてるよ。…………ヒートきちゃって痩せちゃったんだ」
「陸…」
コンちゃんが痛ましそうに俺をみる。俺のヒートを心配してくれてた人。
「大丈夫だよ。」
「陸!陸のα因子が全部が消えたわけじゃないの!だから…待ってて。いつか絶対陸の為に発明するから!」
「…ありがとう、でも…コンちゃんがしたかった研究はそれじゃないよね?」
Ωでも、ヒートがこないという選択肢が用意された世界。それをコンちゃんは作りたかった。
「……私は陸が好きなの!」
「うん。俺も好きだよ」
君の好きとは違ったけれど。コンちゃんの好きは…弟。俺は…若干の肉欲も伴っていた。けれど、情欲というほどではなかった。
本物の好き、はこんなにきれいなものではない。
……嫉妬、独占欲、醜いものばかりだと京極で思い知らされた
ちらりと千葉さんを見る。
肩を竦められた。嫌になるくらい余裕を見せてんな、こいつ。

「コンちゃん、首輪外すから襟広げられる?」
「陸…」
コンちゃんが嫌々と首を振る。
「俺が、その首輪をつけたいんだ。」
「陸…なんで、陸はそうなの!自分を大切にしてよ!」
「してるよ。自分の心を大切にしている。だからその首輪が必要なんだ」

コンちゃんがおずおずとうなじをさらした。…以前は唾を飲み込んだのに。俺のα因子は多分ほぼ残っていない。コンちゃんを噛んで守ることもヒートを軽くしてあげることもできない。
コンちゃんが指をセンサーに充てる。俺が暗証番号を言うと首輪が外れた。
離れた位置で俺らを見守っていた千葉さんが相貌を崩した。
まだまだ安心するのは早えんだよ、ばぁか!俺らの絆なめんなよ

「コンちゃん見て?」
紙袋の中身をコンちゃんだけに見せる。
「いい?」
「うん!!素敵!」
泣き笑い。うん、笑って?
首輪を取り出しそのままコンちゃんにつけた
「まて!!!!!!!!!!!!!」
千葉さんが慌ててこっちに走ってきたがその前にロックが完了する。
「あ、青島~~~~」
あっかんべーと千葉さんに舌を出す。余裕ぶっこいているからだよ。
「お、お前…」
怒りに震えている。
俺だってホントは中指立てたいくらいなんだからな?

「陸、似合う?」
「うん…。似合う…」
君にプレゼントしたかったネックガード。自爆機能なんてないネックガード。だから、底辺のαの俺のマーキングじゃ弱いから蓮兄さんに土下座してでも匂い付けしてもらって渡そうと画策していたネックガード。…これは無臭だけど
千葉さんという上位αの予約マーキングがされているコンちゃんに手を出すバカなんてそうそういない。そして、千葉さんもコンちゃんの意思を無視して無理矢理番おうとはしないだろう。そんな人ならコンちゃんの研究所勤務を許したりしない。
…やっぱり一発殴りたいなぁ
「コンちゃん、暗証番号は俺らが初めて出会った日を西暦で、そのあと出会ったあの場所の緯度経度を入力して。」
「私たちの記念日だね。わかった」

思案顔の千葉さんを見て、二人で笑った。まだ、胸は痛む。俺が幸せにしたかった。けれど……俺たちの好きのメインは家族愛に近い。穏やかな愛情。
俺がΩにならず、コンちゃんも千葉さんと出会わなければ二人で幸せになれた。お互い相手を守る事を考えている夫婦に。けれど守られる事を考えない夫婦に。
俺はコンちゃんを守りたかった。コンちゃんも俺を守りたかった。けれどそこに意思疎通は無かった。お互い一方的に守った。どうすればコンちゃんが俺を守りやすいか、俺が守りやすいか、そんな相談はなかったのだ。
出会わなければ、守りたい守られたいと思う相手に出会わなければ、俺とコンちゃんは穏やかな夫婦になっていただろう。








~~~~~~~~~~~~~~~~
千葉 イケメンでしょ
イメージは某Vチューバー。出会った時はふぎゃーとアドレナリンが出まくりました。脳汁が…………!

頂いた 感想 の中に隠れ 推しは千葉です というコメントがありました。
そうなんです、千葉は私の中でスパダリなんですと返信いたしましたが こういうことです。
運命の影を感じた時はちょっとトチ狂ってしまいましたが、基本それなりに 恋愛をしてきた千葉なので京極のような恋愛童貞の愚かさを披露することもなく、余裕を感じさせます。
そこにコンちゃんもほだされたかなぁ。ずっと陸を守ることばかりを考えてきたコンちゃんだから守られることというのを初めて教えてくれた千葉にほだされたのでしょう。
まぁ、たちんぼさんにしてしまった事がコンちゃん達にバレたらアウトですけどね~


    
しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

処理中です...