【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

文字の大きさ
上 下
150 / 243

148

しおりを挟む
デジャヴ?

兄が泣いている。
そして白い天井に消毒液のニオイ。

うん、デジャヴ。

「陸、気がついたか!」
そのまま腹に抱きついてきて泣かれた。
「陸陸陸…今度こそ助からないかと思った」
「心配かけてごめん」
グスグス泣いている兄の頭を撫でながら、周囲を見渡した。
またも個室。ただ前回と異なるのは猪瀬が隣のベッドに寝ている事か。
アナフィラキシーショック後の回復には薬剤は当然だが、番から漏れ出るフェロモンも効果がある。その為に同室にされたのだろう。

寝巻き姿の兄が、ようやく落ち着いた。……蓮兄さんがキレそうだ。今の俺の体によくないから、看病したいなら、蓮兄さんのニオイは無くせと服を着替えさせられたのだろう。
ここまで蓮兄さんの痕跡が無い兄はどれくらいぶりだろうか。
……

「あれからどれくらい経った?」
「半日。昨日の夜に病院に担ぎ込まれたんだ。」
「そっか……」

猪瀬のフェロモンが香っている。
優しい香りだと思うのは番ったからか。俺がフェロモンレイプをした。

状況が状況とはいえ、許されることではない。いくらαが複数の番がもてるとはいえ俺のようなΩと番になってしまうと問題が発生するだろう。
俺は、バース変更したのが京極という最高位αだったせいかΩとしてのランクはかなり高い。α社会同様Ω社会にもランクがある。そしてαΩ社会にもランクがあるのだ。αは一方的に番解除ができるとされているが、実際には自分より上のΩには不可能で、契約解除したければ番Ωの了承が必要になる。わざわざ解除するΩがいないから知られていないだけだ。

猪瀬は苦しむだろう。
簡単に言えば、俺は高級食材みたいなもんだ。
腹は減るから他の食事だって出来るが、飢餓感はへらない。未契約のΩとしても熱は籠もったままになるし、番契約をしてもかろうじて腹は満たされるが物足りない。
京極という腹を満たす為に俺はそういうΩにさせられた。

…………
猪瀬の額の汗をハンカチで拭く
不思議だ。何とも思っていなかったのに番になった途端になんとなく構いたくなる。奴の香りを持っていたくなる
嫌いじゃない、その程度で良かった。これが憎んでいたやつだったらどう思うとゾッとする。
…………コイツは苦しむだろうな、俺と京極の間で。
…………。


「陸。」
兄さんが言いかけてやめた。
『陸はどうするつもりなんだ』
そう尋ねようとしたのだろう。

どうするかなんて決めていない。どうなるかもわからない。それにそんなことよりも気になることがある
「兄さん、あれ何?」
露骨に不吉なものがカーテンレールから垂れ下がっている。見るからに首吊り縄
「あー、あれ?ちょっと分からせるために必要なものなんだ」
分からせる?
兄がカーテンレールのところへ近づいていく、嫌な予感がする
そのまま首を輪の中に突っ込んで踏み台の椅子をけった。
「……!!」
よく咄嗟に動けたと思う。
カーテンレールが兄の重さに耐えきれずに折れ、後ろ向きに倒れ込む兄の頭を何とかガードした。
「何してるんだよ!」
「陸にわからせようと思って」
「何を!俺が今どんだけ心臓が縮んだか!」
「同じだよ!眠ってる陸を見て俺がどんな思いだったか!」
「違う!兄さんは今自殺しようとしたんだよ!
「お前が今回した事と同じ事をしたたけだ!」
「俺は自殺何て考えてない!」
「同じだよ!レイプなんて心を破壊するものだ。男だから大丈夫とかそんな事はない!それに計算した。俺の重みでレールが壊れることぐらい分かってやったんだよ」
「万が一折れなかったらどうするつもりだったんだよ!こんな事の為に命をかけないでよ!兄さんの命はそんなに軽くない!俺や蓮兄さんがどう思うかわかってんの!」
俺が胸ぐらを掴んで怒鳴ると、兄さんは逆に俺の腹を殴った。
「お前だってそうだ!!俺の大切な大切な弟なんだよ!どんな気持ちだったよ!?俺が首をくくろうとした時に感じた事を一生忘れるんじゃねぇぞ!」
「…………」
「お前の心も体も軽んじないでくれ」
………心臓がぎゅっと縮こまったこの恐怖、それを俺は兄に何度も与えていたのか。
「ごめん」
輪っかを見る。先程までぷらんぷらんと垂れ下がっていた輪っか。不吉で目に入るだけで不安になるような光景だった。アレが兄から見たここ数ヶ月の俺なのだろう。
「ごめん」
泣きじゃくる兄を抱きしめ、外れたカーテンレールを見る。…………蓮兄さんにバレたらそれこそ俺の命がヤバそうだけど。

『お前の心も体も軽んじないでくれ』
特大ブーメランだけどな。俺なんかに分からせる為に危険な事を。計算をミスっていたら首の骨が折れていたかもしれない、兄にはそれが分かっていたはずだ。
違う、俺なんかじゃなくて俺だから。
……ごめん。馬鹿な弟で。ありがとう、兄さん。





~~~~~~~~~~~~~~
陸にはどうしても言っておきたい。

自分を大切にしろと。
目的の為に自己犠牲も厭わない、でも、それで傷つく人間がいるんだよと。傷ついた陸を見て悲しむ人間がいるんだよと。

ここが上手くかけなくて困りました。
読者様の読解力で何とか補間してください。

しかし…
うじうじなのに限界くるとキレる累兄さん。
特大ブーメラン放ったことは気が付かないちょとヌケてる累兄さん。















しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

処理中です...