94 / 235
94
しおりを挟む
湯船に浸かっていると、ドアがノックされた。
「陸、ここが一番安全だからここで話す」
「…………昨日、京極と合ったんだね。それで、どこまで兄さんに話させたの?」
「お前が京極に狙われている事を自覚したこと。婚約者と別れたこと。俺達はコンちゃんに合ったこともないし何の情報を持ってない事」
…………別れてないし。連絡が取れないだけだし
思わず天を仰ぐとお湯がちゃぽんと揺れた。柑橘系の香りがふわりと漂った。宮下のコロンと思っていたあれは、フェロモンだったんだな。既にΩ化は開始していたのだ。
「俺のΩ化の件は」
「そこは止めた」
そこは、ね
本当に上位αというものは腐っていると思う。
泣きはらした兄の目。伴侶に嫌われる位なら、伴侶の心を傷つけることも厭わないのだ。バレなければいいのだ。蓮兄さんは完璧に隠すだろう。俺のΩ化の件を止めたのも、その為だ。兄は過剰な程、自責主義だが、キャパを超えた時点で他責というか、正しく過失割合が見れるようになる。兄は俺のΩへの変化を漏らしてしまった自分を許さない。なぜ、自分がそんな事をしてしまったのか分析し、そして蓮兄さんの思惑に気が付いたはずだ。
α社会で、京極という最上位αに報告をしなければならなかった蓮兄さん。けれど、兄さんは俺を売り飛ばした蓮兄さんを許さない。だから、兄さんに暴露させるという手段を取ったのだと気がついたはずだ。
「クズいね」
「どうとでも言え」
…………
取り敢えず、俺に自覚があることが京極に知られて無いのは救いだ。
「それから…ウチに暫くはいてもいいが、気配が現れれば追い出すからな。」
蓮兄さんが言いたかったのはこれだろう。俺の疑問に答えるのが目的ではなくて。
「分かっているよ。兄さんの幸せを邪魔したいわけじゃない」
ちゃぷん、湯が揺れるのにあわせて香る柑橘。
蓮兄さんは、香りのあるものを嫌う。兄さんに自分が以外のニオイが付くのを嫌うのだ。それなのに、兄がこんな入浴剤を用意する事を了承してくれただけでもありがたい、ありがたい、そう思わなければならないのに……。
「自分で分かるものなのか?変化は」
「……どうだろうね…。」
ちゃぷん
腕を伸ばす。大丈夫、まだ細くななってない。
「コンちゃんを、お姫様抱っこしたかったのにな…」
結婚式。彼女を姫抱きして歩きたかった。俺の腕の中からコンちゃんがドルチェを皆に投げ与えるのだ。
『陸、どんだけ乙女なのよ!』
そういった俺に、彼女は顔を赤くし言い返したっけ。そんな彼女に気分が良くなってチャレンジしたら、10歩も歩けなくて彼女はケラケラ笑った。
それからずっと筋トレしている。毎日一回づつ負荷を増やして、大学入学前には目標距離を歩ける様になった。
『そんな事したらすっど皆にからかわれるよ!』
『大丈夫!挙式は海外って手もあるから!』
照れて顔を埋めるコンちゃんに言ったっけ。
華奢だけど身長はあるから、それなりに体重はある彼女。でも
『もっと増えていいからね!あと20キロまで大丈夫な様になるから!』
Ωのヒートはきつくて、一度で5キロ位減る人もいると聞く。バリバリに働く様になったら、こんなに細いままでは体力が持たない。だからもっと体重をつけて欲しくて体力作りに励んだ。
『陸!ちゃんと勉強しているの!?帝都大には反対だけど!でも落ちた理由が私を抱きあげる為だったなんて嫌よ!?』
『してるよしてる。俺が君を言い訳にするはずがない。だから、もうちょっと太ってね』
『女子にソレは禁句!』
むくれるコンちゃんがかわいくてずつ笑ってた。
コンちゃん……
ちゃぷん…湯が揺れる。
きついんだ。筋トレが。
怖いんだ。筋トレが。
負荷を増やすどころか、今までの回数を熟すことすら困難になってきている。
ねぇ、今の俺は君を抱き上げて移動出来るのかな…
ライムの香りが充満してる……。
「陸、ここが一番安全だからここで話す」
「…………昨日、京極と合ったんだね。それで、どこまで兄さんに話させたの?」
「お前が京極に狙われている事を自覚したこと。婚約者と別れたこと。俺達はコンちゃんに合ったこともないし何の情報を持ってない事」
…………別れてないし。連絡が取れないだけだし
思わず天を仰ぐとお湯がちゃぽんと揺れた。柑橘系の香りがふわりと漂った。宮下のコロンと思っていたあれは、フェロモンだったんだな。既にΩ化は開始していたのだ。
「俺のΩ化の件は」
「そこは止めた」
そこは、ね
本当に上位αというものは腐っていると思う。
泣きはらした兄の目。伴侶に嫌われる位なら、伴侶の心を傷つけることも厭わないのだ。バレなければいいのだ。蓮兄さんは完璧に隠すだろう。俺のΩ化の件を止めたのも、その為だ。兄は過剰な程、自責主義だが、キャパを超えた時点で他責というか、正しく過失割合が見れるようになる。兄は俺のΩへの変化を漏らしてしまった自分を許さない。なぜ、自分がそんな事をしてしまったのか分析し、そして蓮兄さんの思惑に気が付いたはずだ。
α社会で、京極という最上位αに報告をしなければならなかった蓮兄さん。けれど、兄さんは俺を売り飛ばした蓮兄さんを許さない。だから、兄さんに暴露させるという手段を取ったのだと気がついたはずだ。
「クズいね」
「どうとでも言え」
…………
取り敢えず、俺に自覚があることが京極に知られて無いのは救いだ。
「それから…ウチに暫くはいてもいいが、気配が現れれば追い出すからな。」
蓮兄さんが言いたかったのはこれだろう。俺の疑問に答えるのが目的ではなくて。
「分かっているよ。兄さんの幸せを邪魔したいわけじゃない」
ちゃぷん、湯が揺れるのにあわせて香る柑橘。
蓮兄さんは、香りのあるものを嫌う。兄さんに自分が以外のニオイが付くのを嫌うのだ。それなのに、兄がこんな入浴剤を用意する事を了承してくれただけでもありがたい、ありがたい、そう思わなければならないのに……。
「自分で分かるものなのか?変化は」
「……どうだろうね…。」
ちゃぷん
腕を伸ばす。大丈夫、まだ細くななってない。
「コンちゃんを、お姫様抱っこしたかったのにな…」
結婚式。彼女を姫抱きして歩きたかった。俺の腕の中からコンちゃんがドルチェを皆に投げ与えるのだ。
『陸、どんだけ乙女なのよ!』
そういった俺に、彼女は顔を赤くし言い返したっけ。そんな彼女に気分が良くなってチャレンジしたら、10歩も歩けなくて彼女はケラケラ笑った。
それからずっと筋トレしている。毎日一回づつ負荷を増やして、大学入学前には目標距離を歩ける様になった。
『そんな事したらすっど皆にからかわれるよ!』
『大丈夫!挙式は海外って手もあるから!』
照れて顔を埋めるコンちゃんに言ったっけ。
華奢だけど身長はあるから、それなりに体重はある彼女。でも
『もっと増えていいからね!あと20キロまで大丈夫な様になるから!』
Ωのヒートはきつくて、一度で5キロ位減る人もいると聞く。バリバリに働く様になったら、こんなに細いままでは体力が持たない。だからもっと体重をつけて欲しくて体力作りに励んだ。
『陸!ちゃんと勉強しているの!?帝都大には反対だけど!でも落ちた理由が私を抱きあげる為だったなんて嫌よ!?』
『してるよしてる。俺が君を言い訳にするはずがない。だから、もうちょっと太ってね』
『女子にソレは禁句!』
むくれるコンちゃんがかわいくてずつ笑ってた。
コンちゃん……
ちゃぷん…湯が揺れる。
きついんだ。筋トレが。
怖いんだ。筋トレが。
負荷を増やすどころか、今までの回数を熟すことすら困難になってきている。
ねぇ、今の俺は君を抱き上げて移動出来るのかな…
ライムの香りが充満してる……。
101
お気に入りに追加
1,553
あなたにおすすめの小説
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる