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洗面台にいくと、耳栓があった。……ホントに単なる耳栓。
兄に渡すと、想像通り蓮兄さんに耳栓をした。
上位αの、しかも今の精神がささくれだっている蓮兄さんにこんな試供品の耳栓なんて効果ないのに。
それでも、蓮兄さんは抵抗しない。聞こえなかった、そういう言い逃れの手を作る方にしたのだろう。
「陸、何があった?あの検査はなんの検査?」
何処まで話していいのだろうか……チラリと蓮兄さんを見ると、ろくでもない事を喋るなよと目が言っている。
「陸、答えてくれないなら良いよ。ただ、陸には言わなかったけど、あの検査紙、2枚ほどちょろまかして会社の引き出しで保管しているんだ。教えてくれないなら、調べるだけだ。お前をあれほど追い詰める検査が何なのか、知らないままにはできない。」
正直、枚数なんてチェックしてなかった。コンちゃんに自宅以外の何処かに隠してと言われて、ビッチングなんて信じて無かった俺はハイハイと兄に頼んだだけだったから……。コンちゃんは、ウチに京極が侵入してくると思い込んでいて警戒をしていた。アレを盗まれたら、ビッチングを警戒していたことがバレる
…………変な所で調べられるのは困る。アレはコンちゃんがくれた物だ。どこから足がつくか分からない。どうせ調べられれば何の試験紙かすぐ分かるだろう。
「Ω値を調べる紙だよ」
二人が息を飲んだ。
俺の落ち込みようを見て、結果も大体想像がついたのだろう。
「そんな……なんで!なんで!」
兄が叫ぶ。
蓮兄さんは憐れみの目を向けてきた。俺に何が起きたのか、誰によって行われたのか分かっているのだろう。
腕の中で半狂乱になって暴れる兄を軽い手刀で失神させた。
「…………とんでもない事が起きてんな。」
「そうだね……」
「「………………」」
二人で押し黙った。
「……旅行に行ったと聞いている」
「……うん、志摩の京極の別荘に皆で」
「お前を連れていくだなんて悪趣味だな」
「……風光明媚な所だったよ」
「そうじゃない。あの島は先代が番のΩを閉じ込める為に整備した場所だ。」
「αなんて、多かれ少なかれ番を閉じ込めたがるもんじゃない?」
意識のない兄を腕の中に抱き締めている蓮兄さんに、他の人を選んだら心を壊すと宣言している蓮兄さんに言われてもな。
それに……俺も少し分かる。コンちゃんは魅力的だ。番っても底辺の俺では上書きされてしまう可能性があるから、外に出て欲しくない。けれど……それはコンちゃんの望むところではない。コンちゃんは研究者として生きていきたい人なのだ。
もっとも……京極の当主になるような人ならばかなりの上位αだろうし、上書きなんてほぼ不可能だろうに。
「先代の番は運命に出会ってしまった。そして番は運命を選ぼうとした」
…………それは、陰惨な事態になりそうだ。
「だから先代と番は東京から志摩に居を移動した。ただ、どうしても東京に行かなければならなかった数日間の間に、番が別荘から逃げ出した。手製の筏だったから直ぐに壊れて、海で漂流していた所を先代が確保したらしい。」
『筏や遠泳ではこの島は出れない』そういった京極の暗い嗤いを思い出す。アレは俺はへの牽制だった?
「後日、先代は別荘にいた者を山頂に作った処刑場で罰した」
…………山頂?
何故あんな所に開けた場所が、キャンプ場があったのか。
『見晴らしも良いしとても良い場所ですね!』
そういった俺に、京極以外はなんとも言えない表情をしていた。
「使用人を木に括り、頭に林檎を乗せて番に弓で射させた。林檎に的中させれば、その使用人には恩赦が、外れた者、林檎を持ち続けられなかった者は生きたまま豚の餌にした。」
「え……」
「豚は悪食だからな。何でも食う。」
「…………!!」
吐瀉してしまった。口を押さえても無理だった。
『この豚肉、美味しいですね!ブランド豚ですか?』
『いや、この島で育てた豚だ。飼料が良いのだろう』
『『『……』』』
『αの家柄は食材にこだわりがありそうですもんね』
『そうだな。質の悪い飼料になるかは陸次第だな』
『??』
京極の言葉に給仕係の一人が卒倒した。あれはそういう意味だったんだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
本年はありがとうございました。皆様のブクマ、エール、継続の力になりました。
基本、私は、努力も継続もできない駄目人間なので、自分でも書き手を一年継続できるとは思ってなかったので、ブクマ、エール、感謝しております。
来年もこの作品にお付き合いいただければ幸いです。
兄に渡すと、想像通り蓮兄さんに耳栓をした。
上位αの、しかも今の精神がささくれだっている蓮兄さんにこんな試供品の耳栓なんて効果ないのに。
それでも、蓮兄さんは抵抗しない。聞こえなかった、そういう言い逃れの手を作る方にしたのだろう。
「陸、何があった?あの検査はなんの検査?」
何処まで話していいのだろうか……チラリと蓮兄さんを見ると、ろくでもない事を喋るなよと目が言っている。
「陸、答えてくれないなら良いよ。ただ、陸には言わなかったけど、あの検査紙、2枚ほどちょろまかして会社の引き出しで保管しているんだ。教えてくれないなら、調べるだけだ。お前をあれほど追い詰める検査が何なのか、知らないままにはできない。」
正直、枚数なんてチェックしてなかった。コンちゃんに自宅以外の何処かに隠してと言われて、ビッチングなんて信じて無かった俺はハイハイと兄に頼んだだけだったから……。コンちゃんは、ウチに京極が侵入してくると思い込んでいて警戒をしていた。アレを盗まれたら、ビッチングを警戒していたことがバレる
…………変な所で調べられるのは困る。アレはコンちゃんがくれた物だ。どこから足がつくか分からない。どうせ調べられれば何の試験紙かすぐ分かるだろう。
「Ω値を調べる紙だよ」
二人が息を飲んだ。
俺の落ち込みようを見て、結果も大体想像がついたのだろう。
「そんな……なんで!なんで!」
兄が叫ぶ。
蓮兄さんは憐れみの目を向けてきた。俺に何が起きたのか、誰によって行われたのか分かっているのだろう。
腕の中で半狂乱になって暴れる兄を軽い手刀で失神させた。
「…………とんでもない事が起きてんな。」
「そうだね……」
「「………………」」
二人で押し黙った。
「……旅行に行ったと聞いている」
「……うん、志摩の京極の別荘に皆で」
「お前を連れていくだなんて悪趣味だな」
「……風光明媚な所だったよ」
「そうじゃない。あの島は先代が番のΩを閉じ込める為に整備した場所だ。」
「αなんて、多かれ少なかれ番を閉じ込めたがるもんじゃない?」
意識のない兄を腕の中に抱き締めている蓮兄さんに、他の人を選んだら心を壊すと宣言している蓮兄さんに言われてもな。
それに……俺も少し分かる。コンちゃんは魅力的だ。番っても底辺の俺では上書きされてしまう可能性があるから、外に出て欲しくない。けれど……それはコンちゃんの望むところではない。コンちゃんは研究者として生きていきたい人なのだ。
もっとも……京極の当主になるような人ならばかなりの上位αだろうし、上書きなんてほぼ不可能だろうに。
「先代の番は運命に出会ってしまった。そして番は運命を選ぼうとした」
…………それは、陰惨な事態になりそうだ。
「だから先代と番は東京から志摩に居を移動した。ただ、どうしても東京に行かなければならなかった数日間の間に、番が別荘から逃げ出した。手製の筏だったから直ぐに壊れて、海で漂流していた所を先代が確保したらしい。」
『筏や遠泳ではこの島は出れない』そういった京極の暗い嗤いを思い出す。アレは俺はへの牽制だった?
「後日、先代は別荘にいた者を山頂に作った処刑場で罰した」
…………山頂?
何故あんな所に開けた場所が、キャンプ場があったのか。
『見晴らしも良いしとても良い場所ですね!』
そういった俺に、京極以外はなんとも言えない表情をしていた。
「使用人を木に括り、頭に林檎を乗せて番に弓で射させた。林檎に的中させれば、その使用人には恩赦が、外れた者、林檎を持ち続けられなかった者は生きたまま豚の餌にした。」
「え……」
「豚は悪食だからな。何でも食う。」
「…………!!」
吐瀉してしまった。口を押さえても無理だった。
『この豚肉、美味しいですね!ブランド豚ですか?』
『いや、この島で育てた豚だ。飼料が良いのだろう』
『『『……』』』
『αの家柄は食材にこだわりがありそうですもんね』
『そうだな。質の悪い飼料になるかは陸次第だな』
『??』
京極の言葉に給仕係の一人が卒倒した。あれはそういう意味だったんだ。
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本年はありがとうございました。皆様のブクマ、エール、継続の力になりました。
基本、私は、努力も継続もできない駄目人間なので、自分でも書き手を一年継続できるとは思ってなかったので、ブクマ、エール、感謝しております。
来年もこの作品にお付き合いいただければ幸いです。
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