【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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71-猪瀬

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「戻りました」
窶れはしたが、宮下に怪我はなかった。意外とαとしての資質は高いのかもしれない、もしくはよほどの強運の持ち主か。おそらく後者であろう。
「おかえり」
万感の思いで口にする。
ほっとした。もしかしたらうっすらと目に涙が溜まっていたかもしれない。
「遅かったな。……陸にボウガンを教えていた。お前が教えるがいい」
貴嗣様が去っていく。
心置きなく。
的を見て、その高さで宮下は察した。
「猪瀬さん、あと何時間ですか?」
「…………あと2時間が限界だ」
これ以上は引き延ばせない。何とか、青島には上達させたい。
「…………分かりました。青島、俺が教える。その体に叩き込め。」
………………
宮下が覚悟を決めて 青島に言った。
的の高さはおおよそ150~195cm。想定されるコンちゃんの身長から宮下の身長までだ。
つまりはそういうことだ。

俺達はこの島の由来を知っている。
先代は自分の番をこの島に閉じ込めた。先代がΩの首を噛んだ後に、番に運命のαが現れ、その対策のためだった。
先代は上位αではあったが、運命のαとは大差なかった。序列の差が僅かであれば、運命の力によって番契約は上書きできるのだ。
先代の番のΩは運命のαといることを望んだ。
怒り狂った先代は番のΩをこの島に軟禁した。それでもΩは逃げ出そうとし、海に出て溺れかけた。先代は別荘にいた者たちの職務怠慢が引き起こしたこととして彼らを罰した。
罰は苛烈であった。
心優しいΩが二度と逃げ出そうと考えないように……。逃げ出した己を責め続けるようにと。
使用人たちを木にくくりつけ、そして……的としたのだ。
先代がΩを後ろから支え、一つの弓矢を二人で弦を引いたとされている。女性Ωの力などで弓など引けるはずもない。実際には弓矢へ手を添えさせらただけだろう。ただその手の僅かな重みが軌道を決め、使用人達の生死を分けた。
先代の番は二度と逃げ出さなかった。心が壊れたのかもしれない。

先代は貴嗣様を常々、『ワシにそっくりだ』と言っていた。
貴嗣様はそんな先代を冷めた目で見ていた。
その様な愚か者にはならない、と。
使用人を罰した先代は周囲を黙らせるために 多くの富を失ったとされている。貴嗣様はたかがΩの為に巨万の財を失った先代を軽蔑していた
だが、先代に後悔はなかった。貴嗣様には常々『わしに金と地位がなければ 、罪に問われ、番とは離れ離れになっていたであろう。何者をも、黙らせるだけの富と地位を築け、貴嗣』
そう、 おっしゃられていたのだ。
先代を冷めた目で見ていた貴嗣様は青島にあって変わられた。無難にこなしていただけの仕事に、野心を見せるようになった。そう、地位と富を求めるようになられた。
そして今…………人の頭の高さに合わせた的を用意し、青島にボウガンを訓練させている。
雑に青島に教えていた貴嗣様。
教えるがいい」
死刑宣告に等しき事を宮下に仰った貴嗣様。
…………

みな、黙々と キャンプの後片付けをしている。
青島の上達を皆が望んでいる。
先代の凶行が許されたのも 戦後間もないころだということもあるのだ。今の日本でそれが明るみに出ないで済むとは言い切れない。
さらに青島は先代の番ほど弱い心の持ち主ではない。完全に心が壊れたほうが幸せになれるかもしれないのに、正気のまま己を責め続けるだろう。貴嗣様との関係はどうなるのだろう
………………。
この島を出たら、宮下は転学させるしかない。二度と会わないで済むようにしなければなるまい。
俺は貴嗣様を守る


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