【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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53ー猪瀬

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二度目のフライボートでは、青島は少し動けるようになっていた。
その姿を見つめながら貴嗣様が言う
「猪瀬」
「はい」
「陸の元気がない。思いあたる節はないか?」
「…………いえ」
ジッと何かを見透かすような目を向けられる。けれど、本当に知らないのだ。
青島が何を考えているのか。
昨日の夕飯、青島は普通だった。香りの話を遮ったから多少不思議には思われたかも知れないが、問題はないはずだ。ビッチングはもはや都市伝説的立ち位置で、信じてる者など京極家関係者くらいだ。

ぐらり
青島がバランスを崩した。
元々βに近かった青島だが、今の筋肉量はβの平均ぐらいだろう。
急速な体の変化に本人は気がついているのだろうか…
これほど上位のαに囲まれていると、基準があやふやになるだろう。
…………気が付かなければいい。気がつきもせずに貴嗣様に噛まれて心まで持っていかれればいい。
それが、最も青島が傷つかないですむ方法だ。
理由もわからず弱くなっていく自分、そこに怯える時間が少しでも短いといい。

「猪瀬」
貴嗣様が俺を注意する。ずっと一緒に過ごしているから俺が今青島に同情している事などお見通しなのだろう。
「俺は貴嗣様の右腕です。だからこそ、番様と貴嗣様ができる限りトラブル無く進んで欲しいと願っているんです」
青島の意思など完全に無視してのバース変更。
守りたいΩがいる青島を無理矢理Ωにする。
噛む前に、心を奪う前に、これが発覚すれば貴嗣様は苦戦を強いられる。
青島はお人好しのド底辺バカだが、守りたい者があるαなのだ。それを……我々は変えようとしているのだ

俺は……
昨日の青島の発言を貴嗣様に報告できていない。
青島が感じ取った宮下のコロンというのは、宮下のαのフェロモンだったはずだ。
通常、アルファ同士だと威嚇といったものは感じられても、常に漏れ出ているフェロモンの方は感じ取れない。異バースであるΩのみが感じ取れるだけだ。
青島が感じ取れたということはそういうことなのだろう。
そして青島は、貴嗣様のフェロモンの香りを甘ったるい、けれどタールのようにまとわりつくと言った。そして宮下のフェロモンをライムのような柑橘系の爽やかな香りと評した。
これが貴嗣様に知れれば 宮下は無事では済まされない。宮下のことはそれなりに気に入っているから、見殺しにはしたくないのだ
青島が匂いを感じ取れたのが貴嗣様と宮下の2人というのがまた問題だ。
まだΩ要素が弱い青島だから鼻も効かない。 最高位の貴嗣様のフェロモンは強くそんな青島でも感じ取れたのだろう。だが宮下はそれなりに上位ではあるが 千葉や俺といったものよりかは下位だ。つまり俺らの方がフェロモンの匂いは強いはずだ。だが、青島が感じ取ったのは宮下の香りのみだ。
αとして青島は守る存在だったが、Ωなりつつある今、自分を庇護してくれるものを本能的に求め、そしてそれが宮下だったと、青島はそう言ったも同然なのだ。
宮下は青島をその様には見ていない。
どちらにしろΩは噛まれてしまえば、番にしか行けない生物なのだ、宮下はそれまで一定の距離を保てばいいだけだ。

バシャン
青島が再び海面に落ちる。
ケラケラと笑っていた。
少し、少しだけホッとした。





















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αのわりにまとも人間、猪瀬

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