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「貴嗣様だ」
滝つぼに京極様がいた
下を覗き込み、宮下たちが次々にジャンプしていく。千葉さんと俺が取り残された。
…………マジか。泣きたい。
高さに恐怖しか無いんだけど!?
「陸、意外と簡単だ。こい」
首をぶるぶるふると、後ろからドンと押された。
「うわぁ!」
空中に放り出され、一瞬ふわりとしたあと……落下!
ドボン!
滝壺でパニクる前に京極様が俺を捕まえて顔を水面から出させてくれた。本当いい人だ。
一回滝を飛び降りれば、次からは恐怖もなくなり自分の限界を超えて飛び込むことができた。水しぶきが全身にかかる感覚は、最高に爽快で、色々なものを忘れる瞬間だった
川は、所々水の勢いが強くて、足を取られそうになる。その度に京極様が支えてくれて、バランスを保ちながら進んでいた。
…………こういうのをスパダリって言うんだろうな。
気がそれて、岩につまづいてしまい、京極様まで水中に巻き込んでしまった。ヤバっ!
「…………」
「はは…」
俺の慌てる様子に京極様が笑った。
つられて俺も笑ってしまった。
「これもいい思い出になるな」
と言いながら京極様が立ち上がり、俺に手を差し伸べてくれた。
………………
完敗だよ。
ホント。
何処も勝てない。
でも、それでも、俺はコンちゃんを諦めきれない。
…………コンちゃん。上位αが番のΩを外に出したがらないその心が、初めて理解出来たよ。奥に、座敷の奥に隠しておけば、自分より上位のαの目に止まることはない。奪われたりしない。
…………コンちゃん
『オメガだからって、社会で何もできないって決めつけられるのは嫌なの』
そう、君には実力がある。俺なんかよりも地頭はいい。世界に名を残す研究者にだってなれる。
京極様は世界でも稀に見る上位のαだ。けれど、京極様の上に誰もいないわけじゃない。上位αである京極様番への執着は一層強い。番を奪われないために、奥に奥に、屋敷の奥に君を囲うだろう。君は研究もできなくなる。 それを恐れているから、運命であるはずの京極様を怖がっているんだよね。
俺ならそんなことはしない。自由なコンちゃんが魅力的だと思っているから。自信に満ちたその眼差しを見るのが好きだから。
そう思っていたのに、俺の唯一のアドバンテージだと思っていたのに。
俺も一緒だ。君を奪われたくないから、囲いたい。けれど、けれどそれは君の望みじゃないし、君なら俺程度振り切れてしまう。諦めて、君の望みを聞いて外に出せば、俺は君を奪われる恐怖の毎日におかしくなるだろう。下位なのにな、下位のなのに…
コンちゃん、君に俺は執着している。
手を伸ばさない俺に焦れたのだろう、 京極様は俺の腕をぐいっと引っ張った。厚い胸板に激突する。
「陸、私の気は長い方ではない。覚悟しておけ」
京極様の腕の中に体を拘束され、髪を強く引っ張られて頭が痛い。無理やり上を向かされて見えた京極様の顔は恐ろしいほどに無表情だった。
滝つぼに京極様がいた
下を覗き込み、宮下たちが次々にジャンプしていく。千葉さんと俺が取り残された。
…………マジか。泣きたい。
高さに恐怖しか無いんだけど!?
「陸、意外と簡単だ。こい」
首をぶるぶるふると、後ろからドンと押された。
「うわぁ!」
空中に放り出され、一瞬ふわりとしたあと……落下!
ドボン!
滝壺でパニクる前に京極様が俺を捕まえて顔を水面から出させてくれた。本当いい人だ。
一回滝を飛び降りれば、次からは恐怖もなくなり自分の限界を超えて飛び込むことができた。水しぶきが全身にかかる感覚は、最高に爽快で、色々なものを忘れる瞬間だった
川は、所々水の勢いが強くて、足を取られそうになる。その度に京極様が支えてくれて、バランスを保ちながら進んでいた。
…………こういうのをスパダリって言うんだろうな。
気がそれて、岩につまづいてしまい、京極様まで水中に巻き込んでしまった。ヤバっ!
「…………」
「はは…」
俺の慌てる様子に京極様が笑った。
つられて俺も笑ってしまった。
「これもいい思い出になるな」
と言いながら京極様が立ち上がり、俺に手を差し伸べてくれた。
………………
完敗だよ。
ホント。
何処も勝てない。
でも、それでも、俺はコンちゃんを諦めきれない。
…………コンちゃん。上位αが番のΩを外に出したがらないその心が、初めて理解出来たよ。奥に、座敷の奥に隠しておけば、自分より上位のαの目に止まることはない。奪われたりしない。
…………コンちゃん
『オメガだからって、社会で何もできないって決めつけられるのは嫌なの』
そう、君には実力がある。俺なんかよりも地頭はいい。世界に名を残す研究者にだってなれる。
京極様は世界でも稀に見る上位のαだ。けれど、京極様の上に誰もいないわけじゃない。上位αである京極様番への執着は一層強い。番を奪われないために、奥に奥に、屋敷の奥に君を囲うだろう。君は研究もできなくなる。 それを恐れているから、運命であるはずの京極様を怖がっているんだよね。
俺ならそんなことはしない。自由なコンちゃんが魅力的だと思っているから。自信に満ちたその眼差しを見るのが好きだから。
そう思っていたのに、俺の唯一のアドバンテージだと思っていたのに。
俺も一緒だ。君を奪われたくないから、囲いたい。けれど、けれどそれは君の望みじゃないし、君なら俺程度振り切れてしまう。諦めて、君の望みを聞いて外に出せば、俺は君を奪われる恐怖の毎日におかしくなるだろう。下位なのにな、下位のなのに…
コンちゃん、君に俺は執着している。
手を伸ばさない俺に焦れたのだろう、 京極様は俺の腕をぐいっと引っ張った。厚い胸板に激突する。
「陸、私の気は長い方ではない。覚悟しておけ」
京極様の腕の中に体を拘束され、髪を強く引っ張られて頭が痛い。無理やり上を向かされて見えた京極様の顔は恐ろしいほどに無表情だった。
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