【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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「今日はこれで終わりにしよう。陸、夕飯は何を食べたい」

京極様に言われて首をブンブンと振った。家でカップラーメンを食べたほうがまだ美味しく感じるだろう。

「青島、遠慮はいらない。フレンチでも焼き肉でも寿司でも良いぞ」

猪瀬さんがスマホを片手にいう。これ、好みを言った途端に予約されちゃうヤツだ。そんでもってそこは恐らく個室。これ以上この空気感は嫌だ。そして俺にカップラーメンという手段は許されてない。
ならば…

「最セリアがいいです。もともと今日の夕飯はそのつもりだったので」
どうだ、京極様と格安ファミレス。違和感しかないから行かないだろ

「……ほかに希望はないのか?」

猪瀬さんがいう。そうだろうそうだろう、京極様を最セリアに連れていくわけにいくまいて

「今日の気分はそこなので。そこ以外であれば今回は遠慮させていただきます」

今回どころかこの先もだけどなっ

「どうした猪瀬。陸がいきたいと言っているんだ。最セリア予約しろ」

「「え!?」」
俺と猪瀬さんが同時に訊き返す。

「どうした、陸」



いや、どうしたも何もないですよね。
この違和感。
最セリア、美味しいよ?おいしいけれどそれはこの値段の割にはというのであって、普段からゼロが一個以上違う料理しか食べてない方が食べてもおいしくないと思う。
最セリア、値段の割にはこじゃれているよ?でもそれはイミテーションでプリントで本物じゃないんだよ。だから京極様が着席すればメッキ感が半端ない。
最セリア、このお値段だけど店員さんが注文に来てくれるよ?でも貴方があなた方が食べに行っているお店のウエイターたちとはレベルが違うのです。だから京極様を見てポーとなってしまうのもしょうがないし。猪瀬さんに携帯番号を渡す人が出ても、それはしょうがないのだ。猪瀬さんは不快そうにそのメモをくしゃっと握りつぶした。
いたたまれない。
やはり猪瀬さんに店を任せるべきだったのだろうか?
『どうした、陸』
そう聞かれたときに、諦めて猪瀬さんに店選びをお願いするべきだったのだろうか?
でもなんとかなる可能性にかけたかったんだ。

結局何とも言えない空気感のままに。食事を終えた。
とは言え、猪瀬さんは途中から食事を楽しみ始めた。はじめはうま味がないとか、奥行きが無いとか、いろいろ文句を言っていたが、卓上調味料やらほかのメニューやらと組み合わせてアレンジをして、とてもおいしいものを作っていた。
あんまりにも美味しそうだったので少しだけ分けてもらった。
アレンジレシピでブログに乗っけたらかなりバズりそうな気がする。
くださいというのと奪い取るのがほぼ同時だったので、猪瀬さんがすごくあわてて。そして京極様は不機嫌になった。
「陸っ!猪瀬のモノを奪うな。食べたいなら私が陸にあげる」
そう仰ってアレンジ前の料理を口に突っ込まれた。
いや、猪瀬さんがアレンジしたものが欲しかったんだけど。
とりあえず咀嚼して飲み込むと京極様の機嫌が直った。猪瀬さんは自分が作った料理が気に入ったようで、俺からお皿を遠ざけた。死守、そんな言葉が似合いそうな程警戒をしている。金持ちなのにケチだな。

食事中はいろいろなことを聞かれた。
恋人はいるのか?好きな食べ物は何か?好きなスポーツは何か?やりたいことはないのか?欲しいものは無いのか?
当たり障りのない返事で興味をもたれないようにすることに気をつけた。
恋人、この質問にはとても答えづらかった。
いない、とは言いたくなくて濁すのが精一杯だった。









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