【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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何故、何故、何故。
それしか出なかった。
もう、梅雨は明けたのに。

京極様が手を伸ばしてきた。体がびくりと震える。

俺をリクルート?
何故?
「探していたのはリクだったか」
西野の言葉に眉を顰める。側近になるような能力を俺は持ち合わせていないというのに。
けれど、周囲に聞こえるように言う以上、これは命令だ。断る事は許さないと。
だが…能力不足は周知の事実だし、なんとか回避できないかと丁寧にお断りすると……恐ろしい事を京極様に言われた。
「辞退されるのは珍しくて、余計に陸にお願いしたくなったな。」
珍しい、つまりは珍獣。
『京極は陸が珍獣だったから惹かれたの。いい?一般的な反応をしなさい。京極に媚びるのよ!』
この場合は側近になるのが媚って事だよな?まぁ、実力不足はすぐにバレて首になるだろ。
側近の話を受け入れると、京極様は柔らかく微笑んだ。
…………え?固辞するのが、正解だった?どっち?

「陸のこの後の予定は?」
「このままここでフランス語の受講ですね」
「そう、では私も受けていこう」
げっ。教授も含め周りが気の毒だ。
「貴嗣様。それは…」
猪瀬さん、ナイスアシスト!
京極さまがため息をついた。
「分かった。陸、授業が終ったらA1においで。それとそこの……」
「はいっ西野と申します!」
「西野は陸と親しいのか」
「陸とは…いえ、青島とは友人として親しくしております。学内では現時点では私が一番親しいかと」
「西野は授業はないな。このまま私達と……その弁当を食べ終えたら、A1に来なさい」
「はいっ」
「陸。後でな」
「……はい」

京極様が去っていく。教室に張り詰めていた空気が一気に緩む。
「…………西野、お前も次フランス語だろ」
「代返頼んだ」
「……了解」

コンちゃんにメールをうつ。
『私に心配かけまいとして隠し事したりはしないで。後で知ってあの時、こう動けていたらとか思いたくないの』

「……コンちゃん?」
「うん。不安になるだろうから、ホントメールしたくないけど……梅雨も明けたから、多少はマシかなと」
「陸はそこにこだわるなあ。たださ、今朝の天気予報でも梅雨明けっていってたけど、あれって速報値なんだよ。後日、訂正がされることもあるってこと知ってる?」

え?
メールを打つ手が止まる。
「……コンちゃん…」

「陸はコンちゃんとやらがホント好きだな。……陸、俺はお前が気に入ってる。けど、俺は西野建設を継ぐ身なんだ。どうせお前は就職浪人するだろうからウチで引き取ろうって思う程度にはかってたよ」
いや、それ買ってなくね?
「だから…、最後の忠告だ。今すぐその携帯からコンちゃんの形跡を消せ」

西野建設とコンちゃん、関係なくない?

「西野建設なんて、京極の前には風の前の塵と同じなんだよ。吐息一つで吹っ飛ぶ。だから、陸だけの為に動けるのもこれが最後。弁当食べ終えたらもう、俺を信用すんな」
「…………大袈裟だなぁ。大体、俺に側近が務まると思う?直ぐに首になってお払い箱だよ」
西野がまじまじと俺を見て言った
「陸ってホントに下位だな」
「…………喧嘩売ってる?」
手をひらひらされた。

コンちゃんになんてメールしよう。
まだ梅雨明けが確定してないなんて思ってもいなかった。
そればかり考えていたから、俺は西野の呟きを聞き逃していた。

「あの目、αの、高位αの執着が分からないなんて……」
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