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『今日は早めに終わるから、後で話そうね』
 婚約者からのメールにちょっとニヤけた。
 俺の婚約者はちょっと不思議ちゃんなΩの女の子。電波系?
 でも、俺の事を大事にしてくれるとってもいい子だ。
 このコとなら、良い家庭が築けると本気で思っている。

「青島、またAI彼女か」
 京極サマの側近の猪瀬が言う。テストで凹んでいた俺の気分はまたもや急降下だ。
「うっせー」
 AIなんかじゃねぇし。事情があって誰にも紹介出来ないだけだ。それこそこの大学に入る前は何度か目立たない範囲でデートもしていた。
 ただ、AIじゃないと否定するのは婚約者から禁止されている。誤解されているなら、そのままにしたいと。
 うう。おかげでコンちゃん、君の未来の夫は電波系と勘違いされているよ

「まぁいい。……この後、打合せがある。青島も来い」

「えっ」

「どうした、この後約束でもあるのか」

京極サマが一瞬だが、眉を顰めていう。

「いえいえ、大丈夫です」

うぅ、コンちゃんとの電話……と思いながらも、笑顔で返す。

『いい?もう、京極と知り合ってしまったならしょうがない。これ以上親しくならないためにも、次なる対策は、諂笑しなさい。ヤツが陸に落ちたのは陸が珍しく自分に媚びなかったからよ!珍獣だからよ。周り同様、京極サマと親しくなりたいんです~お溢れほしいんです~側近になりたいんです~って媚びへつらいなさい!それが陸の貞操を守る事になるから!』

コンちゃん……オレ、こんなんだけど、αだからね?下位だけどαだからね?能力低いけどαだからね?
女もΩも入れ喰い状態の京極サマがワザワザめんどくさいα男になんて、手を出したりしないから。第一性が男が好みだったとしても、Ω男性を選ぶだろ。Ωは少ない、男性Ωは更に少ない。けれど、京極サマにならその数少ない者たちが列をなすだろう。

気分はドナドナ。
猪瀬と京極サマの後にくっついて行く。
あ~あ、コンちゃんとの時間が……

京極サマは 大学の一部屋を卒業までレンタルしている。
この大学の学生は働いている者も多く、空き時間に業務が出来るようにと有料で部屋を貸し出しているのだ。
京極サマが契約している部屋はミニキッチンまでついている。
作業机とは別にローテーブルとソファまで。
そのソファで俺が何をしているかというと…………
講義の課題だ。
しかも俺の分の。
京極サマとその側近達は宇宙語のようなやり取りをしている。

「陸」

ハイハイ、お紅茶でございますね。京極サマに呼び掛けられて俺はミニキッチンへと移動する。
さっき見た感じだと精神的に疲れているっぽいからカモミールが良いかな。

ケトルの設定温度を95℃にして……ティーポットに注いだ。ティーバッグを軽く押しつけて香りを引き出す。砂時計をセットして、その間に甘味を用意する。あの様子だとチョコレートが良いだろう。
砂が落ちきったので、カップに注いでソファに移動した京極サマに持って行く。
「ありがとう」
ふわりと笑って礼を言われた。ビスクドールのように表情に変化がない京極サマだが、こういう時だけは人間になる。
もっと楽な生き方をすればいいのに。

側近と俺の分の紅茶も用意をする。今日の気分はダージリンだ。
お湯を少し冷ましてティーポットの茶葉の上に注ぐ。茶葉が全体的に湿るようにゆっくりと注いだ。
蒸らし時間中に、これまた茶菓子を物色した。クッキーにしておくか。

机に張り付いている側近達に配り、俺もソファに戻る。

「陸はダージリンか」
「ハイ」
「一口くれ」

元々は全員分をまとめて用意していたが、京極サマ至上主義の側近達に諌められたのだ。自分達と京極サマを同列に扱うなとマジギレ気味に言われた。
イヤイヤ、ナニソレ。
京極サマ、人間だから。
妄信者コワイ。
なので、非効率ではあるが2回に分けている。

「陸が淹れる紅茶は美味いな」
褒められれば、やはり嬉しいもので。
「恐縮です」
言いながらも笑顔になる。食いかけのクッキーを奪われても文句は言わない、言わないケド……後でこっそりおかわりをしよう。
ホントは文句を言いたいけれど、言わない。コンちゃんの厳命だ。兎に角追従して他に埋れろ、逆らって京極サマの興味をひくな、と言われている。
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