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目が覚めると男がいた。
体は洗われていて、清潔なシーツの上にいた。
「おはよう、陸。」
男が幸せそうに目を細めて俺を見る。
咄嗟に体を引こうとしてあらぬ処の痛みに呻いた。
年齢もあって俺のヒートは回数も期間も減った。男は今までヒートの時以外は俺を抱かなかったから、久々の行為に体が悲鳴をあげている。
そう、男は正気の俺を抱かなかった。αの男なんて60過ぎても性欲が強い。けれど外で発散する事も無かった。俺と兜合わせといった方法でするだけで、俺の後を使う事は無かった。俺の第一性に配慮をしてくれていると思っていた。

「陸……」
男が俺の後に指を埋める。蹂躙され息があがる。
男が目尻にキスをしてきた。
「泣かないで…」
泣いている?俺が?
あぁ、そうか。
俺は失ったんだ。違う、得てもいなかった。
幸せな家…。

唐突に理解した。
この男が猪瀬を放置している理由が。ずっと不思議だったのだ、俺の何もかもを欲する男が、俺の初めての番となった猪瀬を生かし続けている事が。
俺を殺す役目の為に生かされている。猪瀬もそれを理解しているのだ。

番同士の結びつきが深いと、片割れと死に別れたらその喪失感で遺された方も後を追う様に衰弱死する。
浅ければ、片割れは生き残れる。
先にこの男が逝けば俺はフリーになる。番契約は亡くなり他の者とセックスする事も可能だ。年老いても最高位Ωの俺を欲しがるαは居るだろう。それに年老いてヒートが終われば俺は女性とも付き合っていける。
男は俺の全てを望む。欠片すら他にやる気はない。男は何があろうと生き残ることを考えては居るだろう、けれど、確率をゼロにする事は不可能なのだ。
猪瀬は…俺に執着している。俺の番があの男だから諦めているのだ。あの男への信奉心はあの男が死んでも残る。だから俺に手は出さないが、他の者に奪われるくらいならば殺す。
その為の要因なのだ。

…酷い人生だ。
主が狙っていたΩにレイプされて主には恨まれて、無理矢理打たれたドラッグのようなものなのに中毒のように忘れられず独身を貫き通して。そして、最愛を殺す為の要因として生かされて、最愛が産んだ息子にビッチングされかけている……。

男が俺の中に入ってくる。
「そうそう、中東の事業が滞っているから猪瀬を派遣する予定だ。アイツなら数年で軌道に乗せて帰ってくる」
猪瀬家の血は、京極から命を受けて離れる分には悪さをしない。不要と判断されて距離を取られた時、生命活動を諦めるのだ。
俺が自ら体を差し出した対価が海外赴任。
この男は俺が何に悩んでいたか知っていた。
そうして、俺の選択もわかっていた。
だから、あの場にいたのだ。架向をつれて。
もっと前に解決案を明示できるはずだったのに、そんなに猪瀬が、お前以外を受け入れた俺が憎かったのか。ずっと復讐できる機会を待っていたのか

男の肩に担がれた俺の脚が行き場もなくプラプラと揺れる。
男の振動にただただ揺れる。

天井が見える。なんの変哲もない一般的な壁紙。
俺らしい家。

笑いあいながら穏やかな時間を過ごして、年老いて架向が独り立ちして孫を得て…そうして、その頃、もし男が先に逝くとしたら、俺の夢を叶えてくれた男についていくのだろうと、どこかで思ってた。
俺を尊重して、京極家にそぐわない家を用意し、父さんの跡を継いだ俺をサポートしてくれた男。はじまり方は許せないものだったが数十年積み上げれば敬意と感謝の家族愛の鎖で、男に引き摺られるだろうと思っていた。
けれど、もう…

プラプラ揺れる脚。
反応する下半身…

誰か。
助けて。
レイプ犯の俺にそんな事を叫ぶ権利は無い……。

でも、
なぁ、いつまで贖罪を続ければいいの。
どうすれば良かったの。
猪瀬をレイプせずこの男に無理矢理番わされていれば良かったのか
過剰防衛と、いつまでもいつまでも責められている。
もう…疲れたよ
誰か……俺を殺して

自殺でなければ、猪瀬も架向も守られる。
誰か…

プラプラ揺れる脚が見える。
そして、反応するΩの下半身…

誰か………もう、疲れた……。













~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
最後までお読みいただきありがとうございました

と言いたいところですが、スミマセン。
ちょっとだけ蛇足話つけます。

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