贖罪ーヒートレイプを仕掛けてしまった男Ωの悔恨の物語。

認認家族

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けれど、己の主の番予定者と番ってしまった事で、猪瀬は自殺を図った。猪瀬は被害者なのに
 俺はレイプという自分の犯した罪の深さを実感した
 いや、実感したと思ってた。だから、番契約を消滅させた。それで解決すると思っていた。αなんていくらでもΩと番契約出来る。俺が手を切れば……と。
 でも、俺がしてしまった事は番契約の消滅をした程度でなかったことにはできなかった
 魂の殺人、そう言われる事を俺はしてしまったのだと思い知らされ続けた。
 20年以上、猪瀬は独り身で、番も作らない。時折、ほんの一瞬だが猪瀬は俺と暮らしたあの時期を、番だったあの時期を懐かしむ。その度に俺は薄れかけていた罪の意識が再び濃くなる……。
 本来の猪瀬であれば 猪瀬家の当主としてオメガを受け入れ 、子宝に恵まれた理想の家庭を築いていただろう。それを俺が奪った…。
 そして更に息子が奪うのだ。猪瀬のαとしての地位も。寄りにもよって俺の息子が!
「陸様…」
 俺が側にいれば、あの男に『去ね』と言われるだけでこの世から逝こうとする猪瀬を引き留めることができる。
「猪瀬、俺と逃げよう。」
 猪瀬の。猪瀬が苦しそうな顔をする。俺への思慕とあの男への忠義で板挟みになっているのだ。

「それは、さすがに許せないね?陸」
 あの男の声が、最も聞きたくない番の声が響いた。
 何故ここにいる。
 まだ、仕事中のはずではなかったのか。

 俺の番が一歩近づく。俺が一歩後ずさる。
「きなさい、陸。」
 番を従属させるようなフェロモンを放ちながら俺に命令をしてくる。
 Ωの本能が番であるαの命令に従おうとするのを必死にこらえる。並みのΩであれば、コイツの催眠に抵抗できなかったろう
 猪瀬を俺の背にかばった。
 俺に一緒に逃げてくれと言われた猪瀬をこの男は許さない。
「猪瀬、長年よく私に仕えてくれたな。も」
「貴嗣!猪瀬が逝けば俺もついていくぞ!」
 男の言葉をさえぎって俺が言った。この男に猪瀬を拒絶するような言葉を言わせてならない。
「懐かしいね、その台詞。」
 俺と猪瀬が番だったころ、この男は契約を無くすために猪瀬を殺そうとしていた。そんなこの男から猪瀬を守るために俺はいつもこう宣言をしていた。
 本気だった。俺の婚約者だったΩは新たに番を得、俺が守らねばならないのは被害者である猪瀬だけだったから、全力を注いだ。贖罪で命を失うのも仕方ないことと思っていた
「でもね、陸?今の君にそんなことができるの?架向はいいのかい?」
 ぎくりとした。
 俺の大事な大事な息子。
 家族。
 最も守りたい者…
「陸がいないなら、私にとって架向は何の価値もない」
 俺の顔色の変化に男が微笑う
「そうだね、寧ろ今回の事態を引き起こした責任を取らせるか」
「あ…」
 本気だ、この男は血を分けた自分の息子にすら冷酷に処罰をする気だ。
「だ、駄目だ…」
 男とは架向の授業参観にも行った。多忙な中、何とか都合をつけていた。あの場に他のαの保護者がいた事は無かった。
 花火大会だって海に山にキャンプに、三人で沢山の家族行事を行ってきた。男は世界有数の企業、京極のトップだ。時間を工面することは並大抵のことでは無かったはすだ。
 だから……愛情があると思っていた。猪瀬を守る為に置いて行っても大丈夫だと思っていた。
 冷たい瞳にそんな事は無いのだと思い知らされた。酷薄な瞳。
 学生時代の悪夢が甦る。俺が慕っただけでころされかけた友人、俺のネックガードを外す為、たったそれだけの為にレイプされたΩ達…。
「た、貴嗣。架向も猪瀬も悪くないんだ。お、俺が早合点して動いてしまっただけで…」
 今はこの男対策だ。この先猪瀬に行われるビッチングだって、猪瀬が今を生き残らなければ意味もない。
「そう?まぁ、私なら陸の悩みなんて簡単に解決できるよ。どちらかが死ねばいい」
「お前の息子でもあるんだぞ!家族なんだぞ!」
 この男は俺に家庭をくれると言った、慈しみ愛おしく思いあう家をくれると言ったのに。
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