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番外篇ー
澤
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意外とここの居心地は良かった。
ここにきて初の土曜日、軽くシェルター内を散策することにした。
造りは以前九条に軟禁されたマンションに似ている。けれど、徹底的に違うのが、開放感だ。外へ出るのを阻む高い高い塀もない。居住者を監視する為のカメラもない。エントランスに警備員はいるが、居住者が通過するに当たり身体検査をするような事もない。
中庭から男女の笑い声がきこえた。
長閑だ……
β用シェルターというだけあっているのは男も女も含めβのみだ。
ただし、男女で棟が別れている。これはβの大多数がヘテロだという事に由来する。因みにαやΩの大多数は第一性にこだわらない。
なので、異性と恋愛関係に発展するかもしれないとαが嫉妬に狂い、凶行におよぶ可能性があるのだ。ここの所有者が権力者とはいえ、
嫉妬に狂ったαに理性的な行いなどは期待できない。αは時に獣だ。
「お~い、投げて~」
智則の足元にバスケットボールが転がってきた。
男女数名が中庭で遊んでいる。社会人も多いようだ
「つか、お前もやらね~?」
断ろうとして、気になる人をみかけて参加することにした。
ボールを手の上で転がしながら歩み寄る
「あれ?見かけない顔だね、新人さん?」
スコア係をしている60後半とおぼしき男性に言われた。…………αの執着が若気の至りといったものではない事を実感させられる。性欲にまかせたモノならば容姿が衰えれば手放してもらえる。けれど……
『僕が智則を手離す日がくるとは思わないで』
『智則が僕から逃げるというなら手足をもぐ』
『それでも逃げるというなら、君を壊す。体も心も……。そうすれば君は僕から離れることも出来はしない。僕が死ぬまで君は僕と共にいる』
ここにいる年齢はマチマチだ。十代前半から60後半まで。70になったら解放されるとかではなく、単純に70にもなれば人の気力も衰える。αのあの苛烈さに疲れて流されるのだろう。一桁がいないのは…………あまり考えたくない。どちらにしろ、βが大多数を占めるこの世の中なのに、世界はα様の思うとおりにできているのだ。
「はい、ちょっと前からお世話になってます」
「あはは、ここは気楽だよ。ゆっくり眠れる。俺は石塚真。よろしく」
手を差し出されてそのまま握手する。
「俺は。」
俺は……なんなのだろう。九条智則?それは言いたくない。秋葉智則?……それを口にする事はこの場ですら許されない。
許されない、か……。苦笑いしか出ない
「トモ君だよ」
にかっと笑って目的の男が言った。
「……トモです。よろしくお願いいたします」
「ふぅん?本名は教えて貰え無いんだ?」
「石さん、いじめないで。この子事情持ちだから」
「オーナー、ここに来ているやつらは皆、事情持ちだろ?」
滞在者ではなく、オーナーだったのか。
「う~ん、そうなんだけど、……分かりやすくいうと、この子の番は俺のより上位だからさ」
「うわ~、悲惨だね」
……やはり、九条はバス企画の社長より上位なのか。
「石さん!言葉選んでよ!」
「え~、でも事実じゃん?それにトモ君だって俺を見ただけで全部悟っちゃって絶望的な顔してたから、今更言葉を飾ってもさ」
「……すみません」
素直に謝った。石さんを見た時、顔が歪んでしまった自覚はある。αの執着は時がたっても消えないのだ
九条は死ぬまで智則を離さない。いや、死んでも離してくれない。九条は自分が死ぬ時に智則も殺すだろう。他に奪わせない為に
ここにきて初の土曜日、軽くシェルター内を散策することにした。
造りは以前九条に軟禁されたマンションに似ている。けれど、徹底的に違うのが、開放感だ。外へ出るのを阻む高い高い塀もない。居住者を監視する為のカメラもない。エントランスに警備員はいるが、居住者が通過するに当たり身体検査をするような事もない。
中庭から男女の笑い声がきこえた。
長閑だ……
β用シェルターというだけあっているのは男も女も含めβのみだ。
ただし、男女で棟が別れている。これはβの大多数がヘテロだという事に由来する。因みにαやΩの大多数は第一性にこだわらない。
なので、異性と恋愛関係に発展するかもしれないとαが嫉妬に狂い、凶行におよぶ可能性があるのだ。ここの所有者が権力者とはいえ、
嫉妬に狂ったαに理性的な行いなどは期待できない。αは時に獣だ。
「お~い、投げて~」
智則の足元にバスケットボールが転がってきた。
男女数名が中庭で遊んでいる。社会人も多いようだ
「つか、お前もやらね~?」
断ろうとして、気になる人をみかけて参加することにした。
ボールを手の上で転がしながら歩み寄る
「あれ?見かけない顔だね、新人さん?」
スコア係をしている60後半とおぼしき男性に言われた。…………αの執着が若気の至りといったものではない事を実感させられる。性欲にまかせたモノならば容姿が衰えれば手放してもらえる。けれど……
『僕が智則を手離す日がくるとは思わないで』
『智則が僕から逃げるというなら手足をもぐ』
『それでも逃げるというなら、君を壊す。体も心も……。そうすれば君は僕から離れることも出来はしない。僕が死ぬまで君は僕と共にいる』
ここにいる年齢はマチマチだ。十代前半から60後半まで。70になったら解放されるとかではなく、単純に70にもなれば人の気力も衰える。αのあの苛烈さに疲れて流されるのだろう。一桁がいないのは…………あまり考えたくない。どちらにしろ、βが大多数を占めるこの世の中なのに、世界はα様の思うとおりにできているのだ。
「はい、ちょっと前からお世話になってます」
「あはは、ここは気楽だよ。ゆっくり眠れる。俺は石塚真。よろしく」
手を差し出されてそのまま握手する。
「俺は。」
俺は……なんなのだろう。九条智則?それは言いたくない。秋葉智則?……それを口にする事はこの場ですら許されない。
許されない、か……。苦笑いしか出ない
「トモ君だよ」
にかっと笑って目的の男が言った。
「……トモです。よろしくお願いいたします」
「ふぅん?本名は教えて貰え無いんだ?」
「石さん、いじめないで。この子事情持ちだから」
「オーナー、ここに来ているやつらは皆、事情持ちだろ?」
滞在者ではなく、オーナーだったのか。
「う~ん、そうなんだけど、……分かりやすくいうと、この子の番は俺のより上位だからさ」
「うわ~、悲惨だね」
……やはり、九条はバス企画の社長より上位なのか。
「石さん!言葉選んでよ!」
「え~、でも事実じゃん?それにトモ君だって俺を見ただけで全部悟っちゃって絶望的な顔してたから、今更言葉を飾ってもさ」
「……すみません」
素直に謝った。石さんを見た時、顔が歪んでしまった自覚はある。αの執着は時がたっても消えないのだ
九条は死ぬまで智則を離さない。いや、死んでも離してくれない。九条は自分が死ぬ時に智則も殺すだろう。他に奪わせない為に
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