努力に勝るαなし

認認家族

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覚悟

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それからは、あっと言う間だった。

足腰が立たない智則を抱き上げて、そのまま百貨店に行った。智則のサイズがある指輪を全て用意させていたらしい。九条はその中から3つを選び智則の指に丁寧にはめていった。
「どれがいい?」
「これ」
「では、これで。刻印が終わり次第、連絡を」
今から彫らせるらしい。頰が引き攣りそうだ。

そのまま、ホテルに向かった。結納をするらしい。父の仕事の合間に約束をねじ込んだらしい。疲れた顔の父が部屋にいた。アメリカにいる母は間に合わないので後日顔合わせをするらしい。
『前にお会いして、ご挨拶は済ませているから、大丈夫』と九条がいう。いつだよ、それ。母もその時点で智則に警告してくれ。
九条の両親は地方に出張していたらしいが予定を切り上げてヘリで戻ってきたらしい。頰が引き攣る。何でも、九条家は恋愛至上主義らしい。あわよくば、後継者問題での反対を願っていたのに、大歓迎で終わられた。
『後継者?じゃあ、弟か妹、私が産むよ』
とお母さん?お父さん?兎に角α女性に言われた。お父さん?お母さん?なΩ男性がもう一度妊娠して、番が子供に夢中になるのが嫌らしい。ガンガンに鳴かせるセックスも楽しめなくなるし……と。
最早、頰が痙攣し始める。
唯一の救いはこの場に兄の一馬がいなかったことだけだ。
九条の膝の上に乗せられて抱き締められながらの結納って、どんだけ羞恥プレイなんだよ。
「お前には、もっと違う人と結ばれてて欲しかったな……」
俺もだよ、父さん。
「優とか唐澤君とか……」
「?由希にぃ?」
なんで今、由希にぃの話?
九条が力強く抱き締めてきた。父に威圧を出している。カチンときて、思いっきり頭突きした。

「酷い、智則……」
九条が、痛そうに呟くが無視をした。智則が威圧というものを嫌っていることは九条も知っている。それなのに、父に振るったのだ。

「秋葉さん……」
九条父?母?、面倒くさい、九条親αが、智則の父を非難するように名をよんだ。だがそこに九条のような威圧はない。当然だ。これがマナーだ。威圧なんて、いきなり殴るようなものだ。

「これくらいの嫌がらせはさせて下さいよ。…………β女性と幸せな家庭を築くと思っていた息子が、蜘蛛の巣に捕まってαのしかもろくでもない男と結婚なんていう道をたどるのだから。」

蜘蛛の巣……言い得て妙だな。
逃れようとすればするほど、雁字搦めになって。

「智則、今日程お前がαで無かったことが悔やまれた日はなかった。α特有の唯我独尊、他者への酷薄さ、それを持ち得ていれば、こんな愚かな選択はしなかった」

頭突きをして弱まっていた九条の威圧が再び強くなる。父が智則の婚約を留めようとしているからだ

「お前の出来を知って、私の子育てを褒める者もいる。α家庭に生まれてここまで優秀なβなど稀だと。だが、お前は私からみたら不出来だ。揶揄されている一馬の方が子供として良い。アレは自分のために他者を利用することになんの躊躇いも持たない。お前は真逆だ。自分のために誰かが傷つく位ならば自分が犠牲になったほうが良いと。良心の呵責とやらに苦しむくらいならと身を投げ出す。子の幸せを願う親なら一馬とお前、どっちが良いと思うか?」

「…………」

父の顔が苦しみに歪む。九条の威圧が、智則にまで伝わってくる。ピリピリと皮膚が泡立つ

「マンションで自殺を試みたあの時の方がまだマシだな。自分の利益を考えていた。」

「英樹!」
「父さん!」

九条の圧が父を攻撃した。かなりの衝撃だったのだろう。体を丸めている。
父の元に駆け寄ろうとするが、九条がガチガチに抱き締めていて身動が取れない。

「九条!」

呼びかけても、フーフーと荒い息をするだけだ。

「…………こんな状況では結納なんて無理ですね。後日にしましょう」

脂汗を滲ませて父が言う。そうか、父は少しでも時間稼ぎをして智則を逃がそうとしてくれてるのだ。
だけど……無理なのだ。九条は智則を逃がそうとした全てを断罪する。父が言うように、それに無関心でいられるほど自分は強くないのだ。
それに………大型犬に弱いんだよ。萎れているのも過剰に怯えて威嚇する姿も見たくないんだ。ゆったりとしたアフガンハウンドを見ていたい

「父さん、ありがとう。でも、俺は九条といることにしたんだ。」

九条の威圧が少しだけ緩む

「九条、俺が指輪を選んだ。それが答えだ。だけど、俺の希望もきいてもらうからな。…………先ずは父に謝罪をしろ」

「智則……」

肩にコテンと頭が置かれた。スンスンとニオイを嗅がれる。βにニオイはないんだが。…………つまりは体臭?それはそれで嫌だが。

「申し訳ありません」

九条が謝罪をするが、父は完全に無視をして智則に問いかける

「良いのか、お前はそれで」

「……はい」

智則から離れる事はない。その強さが智則にはない。九条の方からはなれていくのであれば、それはそれでいい。
…………そんな日は来ないだろうけど。

智則の覚悟が伝わったのだろう、九条の空気が完全に変わった。



ドタバタのなか、結納も終わり、そのまま智則のマンションに連れていかれた。パソコンやら教材やらすぐに必要な物だけ持ち出す様に言われる。このまま九条の家で暮らすらしい。
「婚約したんだから当然でしょ」
いや、それは結婚というのでは?
…………色々、条件のすり合わせは必要だ。

そして再び百貨店にいき、指輪を受け取り、九条のマンションに戻る。

「智則の部屋はこっちね。」

…………ベッドもソファもないんだが。

「ここが二人の寝室で、こっちが僕の書斎。」

九条は上機嫌だ。

「あ~幸せ。今日から智則を抱き締めながらおはようもお休みも言える。」

お姫様抱っこした智則の腹を撫でながらいう。
……早々に条件をすり合わせないとこれはかなりやばい気がする。




















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