努力に勝るαなし

認認家族

文字の大きさ
上 下
158 / 178

九条の運命16-智則

しおりを挟む
狼に見つかった。
森の中だ。
目が合う。金色の瞳がこちらの隙をうかがっている。
身を翻しては駄目だ。獣は動きに敏感だ。
視線を合わせたまま、ジリジリと後退って距離をとって、逃げれる間合いを確保してから走り出すべきだ。
そうでないと、また……また?、なんだっけ?
少しづつ後ずさるしかない
狼もまた、じりじりと近づいてくる。
背中が木にぶつかった。
少しずれようにも、木は連なっていて横移動程度しか出来ない。
狼はその間にも間合いを詰めてくる。
横に横にズレていったのに、木はいつの間にか横にもあった。もう、一歩も動けない。
智則がこれ以上逃げれない事を察して、狼の飢餓感は少しだけ薄まったようだ。
あともう、50cmの距離だ。

狼は社会性を持つ動物だ。
このまま食べられるよりは…………もしかしたら。
恐る恐る手を差し出すとペロリと舐められた。害意は感じられない。
安堵の余り腰が抜けた。獲物が動けないことに機嫌を良くした狼がペロペロと智則の顔を舐めてきた。くつぐったくて笑ってしまった。次の瞬間、狼と思っていたソレが犬だった事に気がついた。それとも途中で変わったのか。見事な見事なアフガンハウンドだった。
「……九条?」

「うん。なぁに智則?」
九条の声で目が覚めた。夢か。九条の部屋のベットの上だった。
九条に腕枕されている。

……なぜ、真っ裸…
腕の中から抜け出そうとすると、後ろから強く抱きしめられた。
………

項に鼻先をうずめてスンスンされる。
「ああ、夢みたいだ。智則を抱きしめて眠れたなんて」

……
ラット、終わったんだよな?
なぜに、硬いソレが当たっているのか。あんだけヤっても空にならないのか?

「だって、智則が腕の中にいるんだよ。こうなるでしょ」
読心術か。
「ううん。体をこわばらせたからそうかなぁ…、なんて。」
何もいってないぞ、完全に読心術じゃないか。

そのまま躰をなぞられる。
ゾワリとして声が漏れそうになり…むせた。

「あぁ、喉乾いたよね。」

ミネラルウォーターを取りにいった。真っ裸でもここまで見事な筋肉と堂々としたその佇まいとで感嘆しかない。


ノックが響いて達也が入ってきてた。九条がガウンを羽織る。
達也が眩しい物を見るように目を眇めた。そして……
「おめでとうございます」
「ああ。ありがとう」
…………誕生日か何かか?

そして朝食を貰う。ソファの上で九条に横抱きにされて、レンゲを差し出されてあ~んとされる。脚に九条の剛直が…
「おい、当たっている」
「うん。大丈夫。当てているの」
何がどう大丈夫なのか。けれど、追求してもろくな事にならないだろう。横抱きにされるのも、当てられているのも気にしたら負けだ
「そういえば、九条、今日誕生日かなんかなのか?」
「え?ちがうよ?」
「いや、達也がさっきおめでとうございますって……」
「え?ああ。今日は智則を番……じゃなくて伴侶になれた日だから。結婚記念」
「……は?」
結婚を了承した記憶なんてない。
「え?だって智則、僕の執着理解したよね。で、僕から逃げられない事も理解したよね」
そこはまぁ、理解した。運命ですら相手にせず智則だけを欲していた。それがどうして結婚と言うことになるんだ。

「他に惚れたら相手も智則もどうなるか分かっているでしょ。惚れられるのもダメだけど、こればっかりはねぇ?智則いい男だから、不可抗力だよね。……高校時代、モテてたよね。あ、ちなみに智則とヤッた女、僕と出会う前だったからなんとか許してあげているけど、再会して迫ってきたりしたら、即処分するからね。」

「……」

処分…。強い響き。コイツは実行するだろう

「実際問題、僕が智則を得たって、誰が見てもわかるし、九条で最上位αの僕から奪う気概のあるαはいない。ただ、βは違う。僕を知らない。君はいい男だ。僕は智則が揺れない事はわかっている。けれど、それでも、智則が他の人間に迫られるのは嫌なんだ。色目を使ったやつを片っ端から始末してもいいんだけど?」

智則は嫌でしょう?
小首をかしげてきいてくる。文面さえ聞いてなければ小型犬がご機嫌伺いをしているようにしか見えない。

「だから、結婚しよう?どっかのマッドサイエンティストが数年前にαとβの同性婚を国に認めさせたし?智則が結婚してなければ、確実に迫ってくる。結婚してても迫る馬鹿はいるだろうけど。でも、そこまでの馬鹿なら処分しても何ら問題ないからね。始末する量は少ない方が智則もいいでしょ?」

ぞくりとした。殺略者とこうも穏やかな顔をしているものなのか。人を人数ではなく量とカウント出来てしまうものなのか。
「お、お前には倫理観とかないのか?」

「あはは。αにそれを期待しても無駄ってまだわからない?上位になるほど、番のためならなんだってやるよ。……執着まだ、理解できない?足りなかった?」

「う……」

声を低めて耳元でささやかれた。熱い吐息。指がガウンの中に入ってきて、尻の狭間をたどる。

「メ、飯食いたい!腹が減ってんだよ!」

九条を押しのけて、中華粥を自分で食べ始める。残念…つぶやきが耳をかすめたが無視した。食べながら考える。結婚、九条は本気だろう。
断る術はあるのだろうか……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

5人の幼馴染と俺

まいど
BL
目を覚ますと軟禁されていた。5人のヤンデレに囲われる平凡の話。一番病んでいるのは誰なのか。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

処理中です...