努力に勝るαなし

正気に戻って…

霧が晴れたようだった。

正直、ちょっと前の自分には戻りたくない。人形を本物の智則と勘違いをしていたなんて恥だ。
達也が俺に外で仕事をさせなかった理由が判明したさ。偽智則とのデートだってそりゃ反対するだろう。
九条の御曹司が人形をお姫様抱っこして外を闊歩？人形に食事を与え？社内の人間にも示しはつかない。

ただ、一つだけ良かったことというか、分かったことがある。

おれは、どんな智則でも手放せない。
智則だと思うだけで、人形でも達也より優先した。威圧も振るって守った。
智則が脳死状態であれ、生きている限り、いや、遺体であっても執着をしてしまうのだろう。
智則にとってそれは嬉しくはないことなんだろうけど。
ただ、人形を相手にしながらも、智則の声が恋しかったし黒曜石の瞳に見つめられたいと思った。
智則の表情の変化、嬉しいときに広がる瞳孔、高揚すると淡く紅くなる頬、英樹の力でそんな変化を起こさせたいと思った。
どんな智則でも愛せる。でもどうせなら、壊れていない智則がいい。

智則のそばをキープした。
前のように無理に自分の意見を押し付けない代わりに、近くを維持した。
智則の放牧というよりはドックランを遊ばせる感じかな。クラスメイトのα達もさりげなく智則を観察している。
ノーリード、智則はそう思っているかもしれないが、柵の中だけだ。

「智則」

俺のドックランに嫌な奴が乱入してきた。唐澤由希、智則に懐かれているα。Ωにフェルモンレイプされたα。少し、何かが違っていれば、俺も唐澤のようになっていたかもしれない。俺が壊れていた時に、智則に似た風貌のΩフェルモンレイプされたら、番っていたかもしれない。まぁ、唐澤とちがって俺ならそんなΩは収容所送りにしてモルモット化して、智則と番う。

「由希にぃ」

智則がいう、
なんだよ、そのにぃって。
許せない。許さない。その甘えた感じはダメだよ。

可愛い可愛い智則だけど、それはダメ。君が頼っていいのは俺だけ。
名前呼びも愛称ももっての外だ。

唐澤もだ。
俺の番にデレデレしているんじゃない。

…罰を与えねば。

キャンプにいくというなら、都合がいい。

唐澤には己の罪深さを実感していただこうか。
智則には……君が頼れるのは俺だけなのだと知ってもらおう。唐澤の片鱗など木っ端みじんに砕いてやる。唐澤を思い出すだけで辛くなるくらいの体験をすれば、思い出しはしないだろう？