努力に勝るαなし

時々智則が元に戻るー英樹

意志をなくしてしまった智則だけど、時々以前の強い瞳の智則に戻る。
その時は俺を強烈に引き付ける。Ωのように香りがあるわけでもないのに誘引剤でもつけているのか心臓を鷲掴みされるかのようだ

ただ、それはいつも大学にいるときで、巣ではそうなってくれない。巣では自我を切り離してしまうのだ。

大学へは週一でいく。達也が車で送ってくれる。この時ばかりは智則もはしゃいでいるのか、後部座席に一緒に座っていたのに、いつの間にか歩道を歩いているのだ。
声をかけてくれればいいのに。

でも、大学構内では声をかけない。それが約束だから。
教室にいる智則はとても楽しそうで、αどもがでれっとしている。
もっと見つめていたいけど、達也が迎えに来る。

「車の中で智則様と合流しましょう？」

車に戻ると智則は心を閉ざしてしまう。だから、もっと見ていたいけど、、、さっき智則に合図を送ったしな


大学に行かない日は、智則は無気力になる。二重人格というのだろうか。外界をシャットダウンしてしまうのだ。巣なのに。本来君が一番安心できる場所のはずなのに。

コインタワーを智則と二人で磨く。
智則は達也がコインタワーに触れるのを嫌って、自分で磨く。けれど、最近はそんな気力もなくて俺に任せっぱなしだ。俺が磨くのは嫌がらないから。だから、智則を片腕に乗せて磨く。

コインタワーの回数はここのところ増えない。智則の大好きなトレイルランニングに誘っても反応してくれない。
達也も、今の智則を山に連れて行くのは危険だと反対をする。
でも、タワーの回数が増えないのは寂しい。
食事に誘っても、無視する。
達也が、流動食しか食べれない智則様にそれは…と言われてもっともだと納得するしかない

ため息をつく。
大学にいる時の智則に戻ってほしいのに。

ふっとタワーの脇に置かれている500ウォンが目にうつる。
ダメだダメ。智則が生命を失うくらいなら、今の智則でいい

「死なないで。おいてかないで…」
ナイフをためらいもなくひいた智則を思い出して体が震えた。
このコインは特別なコインだ
俺への戒め。
初めて智則が俺にくれたプレゼント…