努力に勝るαなし

認認家族

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マンションにてー英樹

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奇跡、だったと思う。
智則に躊躇いは一切なかった。
智則の動きを見る前に体は飛び出していて、だから間に合った。

思い出すだけで背筋が凍る。迷いなくナイフをひいた智則

智則の上に馬乗りになる。手が動かないと、すぐ逃げられる。また、試みるかもしれない。引き千切ろうとすると

「う~ん、それは君の手が切断されちゃうからやめたら?超回復でくっつくのかもだけど、反動が酷いでしょ。いまなら、智則が2回目をできるようになるのはまだまだ先だ」

智則がカタカタと震えていた。
死を間近に感じ、2回目のほうがハードルが高くなるという話は聞いたことがある。

「君が、またレイプでもしない限り、直ぐには無理だよ。まあ、失敗して良かった、のかな?」

カッとした


この男は、智則が自殺をはかる事を予見していた。
なのに、止めなかった。
英樹が訳も分からずに動いたから間に合っただけで、英樹がその直感に従ってなかったら今頃は……!

怒りのままに威圧をふるう。
悠一が膝をついた。その程度では許しはしない。

「智則を失いかけたのは俺だ!お前じゃない!お前は、お前が智則を失わせかけた!」

何をいっている、この男は何を

「お前はわかるのか。息子が自殺するのを止める術を持たず、息子に遺体をよろしくと言われる親の気持ちがっ。親の前だから、安心して自殺できる、なんて言われる気持ちがっ。わかんないよな、人形でいいんだ、いや、人形になった智則の方がいいんだよな、お前は!そんなお前から、智則を守る術持たない親の気持ちが!」

俺から守る?
何を言っている。
「俺が智則を守るんだ!」

悠一がため息をついた。

「君は………本当に愚かだね。智則は君から自分を守るために自殺しようとしたんだよ。」


智則が震えている。智則に最も遠い言葉、自殺。
なのに……
そんなに、そんなに俺の側が嫌か。
こんなに、こんなにも俺は智則を必要としているのに。

「智則、僕は、君がいないとダメになっちゃう。それくらい、君が好きなのに……」

智則が首を振る。

「智則は、君がいるとダメになるよ。ダメというより心臓が動いているだけの死体かな」

『人形はゴメンだ』
智則が呟いたアレは……。

「九条君、君の愛し方は、Ωに対する愛し方で、βである智則を見ていない」

何を言っているのだこの男は。
俺は智則を見ている。智則が何を好きか何をしたいか全部分かっている。

「Ωって大抵さ、番に囲われて好きな物でつくられた巣の中で番や近親者の事だけを考えて生きていくのが幸せ。けどβは違う。外に世界があってその社会と共存しながら、伴侶と生きて行くのが幸せ。さて、君がしてきたことは」

智則が好きなものは、全て与えた。以外は。
俺は……

「ねぇ?Ωはさ、一人一人固有の香りがあるよね。爽やかだったり甘かったりで、そこにαは惹かれる。歳をとっても、香りの質は変わらない。じゃあ、βには?何処に惹かれるの?体?その人の内面?物事に向き合う姿勢とか?」

智則の何処に惹かれたか?
そんなの全部だ!
入学式、出会ったときに俺は智則に全て奪われた。

「体なら、時が経てば劣化する。智則の真っ直ぐな心?でも、壊れていいんだから、心でもない。つまり、今の智則の体だけほしい。だったら、模した人形でいいだろ。永遠に若い智則と同じ体とヤれるよ。更に改良予定で、声も出るようになるらしいし、希望があれば、経年劣化もさせられるだろうし」

違う。

真っ直ぐに前をみつめる瞳。
スラリとのびた手足
努力を惜しまないその姿勢。
しなやかな筋肉
物事の考え方。
柔らかい声。
屈託のない笑顔
………こうなる前は時折、英樹にも見せてくれたもの。
人形には無いもの。


………
「僕は………智則が好きだ」

「うん、それで?」

悠一が英樹を追い詰める。

「智則……好きだ好きだ好きだ好きだ」

英樹の涙が智則に落ちる。智則は顔をそむけた。

「それで?智則の何処に?未来に絶望している智則?前向きな智則?思考能力の無くなった智則?」

悠一は知らない。
全身が番を求める感覚を。
理屈じゃない、本能が求めるこの感覚を。
どんな智則でも自分は求める。
植物状態であろうと四肢が無くなろうと智則は智則で、本能が求める。
だから、智則が自殺できないように、四肢を奪い舌を奪い、何もできなくした智則でも秀樹は求める。でも、英樹が最も好きな智則は……
そして、智則はそうなったとしても、死ぬ手段を探す。英樹から自分を守るために。本気で自殺を試みるものから、その手段を完全にうばうのは、難しい。衰弱死という手段だって残ってしまう。それならば……。

「智則。君が好きだよ。だから……放牧してあげる」

「………」

「でも、放牧だ。他の人のものになる事は許さない」

智則の頬をなぞる。ピクリと震えた。

「それが、解放する条件か」

「うん。する条件はこれだけ。ただし破ったら、君を自殺も出来ない状態にしたうえで、君に関わった者全てを自殺に追い込む。秋葉深澤は勿論、小学校の同級生までも。僕にはその力があるよ」















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