努力に勝るαなし

認認家族

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俺の意志はー智則

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朝のコーヒータイムを終えて九条がまたトレイルランニングに誘ってきた

「昨日あんだけの怪我をしたんだろう。今日はやめておけ」

どこかをかばって動いているようにも見えないが、昨日あれだけの出血を伴う怪我をしたのだ。九条の体をジロジロ見ながら言うと、ふふっと笑われた。

「智則、そんなに見つめないで。照れちゃう。それとも、智則もほしいと思ってくれているの?」

思わず飛び退った。
ガタンと倒れたイスを見て九条が悲しそうな顔をした

「冗談だよ……ね、今日、起業家達の集まりがあるんだ。智則も行ってみない?面白いよ」

行ってみたい気はする。だがこのリストバンドを着けたままというのは抵抗がある。

「外すよ、かわりに足にGPS付きのアンクレットをつけさせてもらうけど」

最近になって屋内ではアンクルモニターは外されていた。逃げようないと智則が悟ったことが大きいのだろう。逃げたいのは山々だが。


起業家たちの集まりは面白かった。学ぶことが色々ある。同時にやはり焦燥に駆られる。このままここにいても九条のもとにいても、こうやって得た知識はどこにも使われない、使う機会がないのだ。

帰りの車内、
「なあ、俺は山下教授のゼミに入るために帝都大学に入ったんだ。山下教授はリモートを推奨していない。このままここにいたら俺はゼミには入れなくなる」

「だったら山下教授のゼミに入らなければいいじゃん。ゼミは他にもあるんだよ。智則は巣にいないと」

……
言葉が届かない
智則は山下教授のゼミに入るためにと言ったのに

「帝都大学にβの頭脳で入るのはとても大変だったんだ。色んな所で無謀だって言われたよ。それでも教授に会いたくて俺は頑張って勉強したんだ。それを認めてくれないか」

「違うよ、。山下教授じゃない、僕に会うために勉強をしたんだよ。そういう運命だったんだ」

……
ダメなのか。
九条は俺の好みが分かっている。今日の集まりといい。だから俺を認めてくれているんだろうと思うのに、でもやはり俺の意思を尊重はしてくれないのだ

九条は俺に何を求めているのだろう……。

車内に重たい空気が流れた。


数日経ってまた九条がトレイルランニングに誘ってきた

今度は行くことにした。

九条の怪我は恐らく直っている。
βであれだけの出血をしていたらまだ安静にしてなければならないはずだが、αならば怪我の治りも早いと、ネットで検索してわかった。
ネットには都市伝説的なものも書かれていた
『アルファーの位が上がれば上がるほど傷の治りは早い。その代償として、負傷期間中は動物的本能が強くなる』
これが正しいかどうかは不明だ。
ただ深沢の家にいた頃、猛に優の見舞いに行きたいと申し出た。あんなことをされても大切な大切な幼馴染だ
猛は『優は今、回復期だ。そんな最中にお前が行くのは危険だ。智則、怪我を負ったαのそばには近寄るな。特に上位種だ。やつらの回復力は凄まじい。放置しても死にはしない。下手に近づけば食われるだけだ』そう言って面会に行くのを許してはくれなかった

あのタオルが赤く染まった日の翌朝の九条は、怪我をおってるように見えなかった。一晩で回復したのだろう

案の定、九条は通常運転だった。
5本目智則がふらつき始めたが、九条は難なくこなしていた。
3本目までは俺の方がリードしていたのにな……
気が散ってしまったせいで足を踏み外した。

九条が慌てて手を伸ばした。
「優っ」
癖でついつい呼んでしまった。伸ばされた腕をつかむのに躊躇った。

幸い小さなかけだったので大した怪我しないで済んだ
5本目は途中で U ターンをして帰ってきた。そのせいか今回は目が冴えて寝落ちすることは全くなかった
九条はずっとずっと無言で、智則はまた傷つけしまったと、凹んだ。





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