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ぬるま湯じゃなかったー智則
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ぬるま湯に浸かっているような、けれど、このままではいけないという焦燥感もある、そんな軟禁生活が続いている。
最近の九条はボルゾイとを越えてアフガンハウンドのような気品まで出てきた。
分刻みのスケジュールのはずなのに、朝のコーヒータイムはもはや優雅さしか感じない
「なぁに?」
視線に気がついて、九条がふわっと笑ってきいてくる
「いや、なんか最近のお前、優美、だよな」
ふふっと笑いながら、なにそれ~という。
「僕がそうだとしたら、それは智則のお陰だよ。智則がいてくれるからこんなに幸せで満たされているんだ」
………好きでいるわけじゃない。思わず眉を顰めたが、九条はどこ吹く風だ
ちょっと前までは、智則の帰りたいアピールにも反応していたが、今はそれもない。
帰れない事がわかっているから。唇を噛んだ
ネットは見れる。
けれど、書き込みが何故かできない。調べ物はできるのに、外に発信をすることができないのだ。
父親は無事だ。助けを求めれば応えてくれる可能性も皆無ではない。………勝率は低そうだが。
「俺は、ここを出たい」
「うん」
ニコニコ笑うだけだ。
「出してくれ」
「無理」
ニコニコ笑うだけだ。
「どうしたら、解放してくる?」
「智則は僕の番だよ。番は共にいるものだよ」
「……俺はβだ。βはαと番わない」
「智則は僕の番だっ」
「俺はβだ。伴侶になるのもβだ」
「βだなんて百も承知だっ智則がΩだったらとうに噛んでてこんな不毛な言い合いなんかしてないっ噛んで心も体も手に入れられてたっβなんかでなければっ」
「英樹様」
コーヒーを持ってきた達也に九条が我にかえる
「あ…違う、違うんだ智則。そうじゃ無くてっ」
………
βでなければ、か。
幼い頃から言われ続けた事だ。
今更傷つきはしない。しないはずなのに、なんで自分は平静でいられないのか。
グっと歯を食いしばる。
九条の縋るように伸ばしてきた手を振り払った。
「部屋に戻る。鍵はかけないけど、入って来んなよ」
「智則っごめんっ僕を見限らないでっ」
扉を閉めるときに見えた九条の顔は絶望に染まっていた。
部屋に戻る
握っていた拳を開くと手のひらには爪で血が出ていた
軽くため息をつく
βでなければ、か。
けれど、ではオメガだったらどうなっていたのだろう
『オメガだったら噛んで心も身体を手に入れてた』
そうだ、噛まれて体に九条が刻まれて心まで引っ張られていたのだろう。
でも、それは智則の心を力ずくで変えるようなものだ。
「βでよかったんだ……」
そして、もう一つ。
九条にはこちらに対する性欲は無くなったように見えていたが、そんな事もなかったようだ。
用心はしなければならない。
ぬるま湯などと何を呆けた事を考えていたのだ。
夜、家の中が騒然としていた。昼間に九条が踏み込んでくるかとおもったが、それもなくすんだが。
様子を見るために部屋出る。
夜、部屋を出るのは抵抗があって今まで一度も出たことはなかった。
達也が九条の部屋から出てきた。
智則がいたことに驚いたようだった。
「智則様部屋にお戻りください」
「何があったんだ」
達也が血に濡れたタオルを持っていた。
「いえ、英樹様がちょっと怪我をされただけです。部屋にお戻りください」
「……昼間のやりとりのせいか?」
あの絶望に染まった顔が思い浮かぶ
少しだけ良心が咎めた
「そう思われるなら部屋にお戻りください。あなたには見られたくないはずです」
言われて部屋に戻る。あれだけの出血量だ。かなりの怪我が予想される。
朝までずっと悶々としていた
翌朝現れた九条はいつも通りのボルゾイで少しだけ安堵した。
「怪我は大丈夫なのか」
「智則心配してくれたの?ありがとう」
九条はとろけるような笑みを浮かべた。やっぱりアフガンハウンドだ
良心の呵責が少しだけ薄れた気がした
最近の九条はボルゾイとを越えてアフガンハウンドのような気品まで出てきた。
分刻みのスケジュールのはずなのに、朝のコーヒータイムはもはや優雅さしか感じない
「なぁに?」
視線に気がついて、九条がふわっと笑ってきいてくる
「いや、なんか最近のお前、優美、だよな」
ふふっと笑いながら、なにそれ~という。
「僕がそうだとしたら、それは智則のお陰だよ。智則がいてくれるからこんなに幸せで満たされているんだ」
………好きでいるわけじゃない。思わず眉を顰めたが、九条はどこ吹く風だ
ちょっと前までは、智則の帰りたいアピールにも反応していたが、今はそれもない。
帰れない事がわかっているから。唇を噛んだ
ネットは見れる。
けれど、書き込みが何故かできない。調べ物はできるのに、外に発信をすることができないのだ。
父親は無事だ。助けを求めれば応えてくれる可能性も皆無ではない。………勝率は低そうだが。
「俺は、ここを出たい」
「うん」
ニコニコ笑うだけだ。
「出してくれ」
「無理」
ニコニコ笑うだけだ。
「どうしたら、解放してくる?」
「智則は僕の番だよ。番は共にいるものだよ」
「……俺はβだ。βはαと番わない」
「智則は僕の番だっ」
「俺はβだ。伴侶になるのもβだ」
「βだなんて百も承知だっ智則がΩだったらとうに噛んでてこんな不毛な言い合いなんかしてないっ噛んで心も体も手に入れられてたっβなんかでなければっ」
「英樹様」
コーヒーを持ってきた達也に九条が我にかえる
「あ…違う、違うんだ智則。そうじゃ無くてっ」
………
βでなければ、か。
幼い頃から言われ続けた事だ。
今更傷つきはしない。しないはずなのに、なんで自分は平静でいられないのか。
グっと歯を食いしばる。
九条の縋るように伸ばしてきた手を振り払った。
「部屋に戻る。鍵はかけないけど、入って来んなよ」
「智則っごめんっ僕を見限らないでっ」
扉を閉めるときに見えた九条の顔は絶望に染まっていた。
部屋に戻る
握っていた拳を開くと手のひらには爪で血が出ていた
軽くため息をつく
βでなければ、か。
けれど、ではオメガだったらどうなっていたのだろう
『オメガだったら噛んで心も身体を手に入れてた』
そうだ、噛まれて体に九条が刻まれて心まで引っ張られていたのだろう。
でも、それは智則の心を力ずくで変えるようなものだ。
「βでよかったんだ……」
そして、もう一つ。
九条にはこちらに対する性欲は無くなったように見えていたが、そんな事もなかったようだ。
用心はしなければならない。
ぬるま湯などと何を呆けた事を考えていたのだ。
夜、家の中が騒然としていた。昼間に九条が踏み込んでくるかとおもったが、それもなくすんだが。
様子を見るために部屋出る。
夜、部屋を出るのは抵抗があって今まで一度も出たことはなかった。
達也が九条の部屋から出てきた。
智則がいたことに驚いたようだった。
「智則様部屋にお戻りください」
「何があったんだ」
達也が血に濡れたタオルを持っていた。
「いえ、英樹様がちょっと怪我をされただけです。部屋にお戻りください」
「……昼間のやりとりのせいか?」
あの絶望に染まった顔が思い浮かぶ
少しだけ良心が咎めた
「そう思われるなら部屋にお戻りください。あなたには見られたくないはずです」
言われて部屋に戻る。あれだけの出血量だ。かなりの怪我が予想される。
朝までずっと悶々としていた
翌朝現れた九条はいつも通りのボルゾイで少しだけ安堵した。
「怪我は大丈夫なのか」
「智則心配してくれたの?ありがとう」
九条はとろけるような笑みを浮かべた。やっぱりアフガンハウンドだ
良心の呵責が少しだけ薄れた気がした
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